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『これって夢? 俺、死んでるよ!』

青木 航著



 どうやら俺は死んじまったらしい。でも、生きてた時の記憶はほとんどない。

 ただ、宗教についてどう考えてたかって記憶だけは何故か鮮明にあるんだな。

 一言でいえば、宗教なんて全く信じていなかったってこと。墓は真言宗智山派のお寺なんだけど、その前には、浄土宗のお寺だった。

 俺が子供の頃、何だか知れないけど新しく墓地を買ってお墓の引っ越しをした。
 親も多分宗派なんて気にしていなかったんだろうね。家を引っ越すようにお墓の引っ越しをしたって訳だ。

 俺は、イラン人のアリと韓国人の朴と3人一緒に死んだ。
 それは分かっているんだが、何でそんなことになってしまったのかさっぱり覚えていない。だが、彼等への親近感は残っている。

「何? ここ」
 そう聞いてみた。

「あの世の入口だろう。…… ああ、俺、懺悔はちゃんとしたのかな? 死ぬ前に…… もししてなかったとしたら恐ろしいよ。覚えていないんだ」

 敬虔なクリスチャンである朴は不安げな表情を見せている。

「すべてはアラーに委ねるしかない。俺は一日5回の礼拝を欠かしたことはないし、コーランをいつも持ち歩いて時間を見つけては読んでいた。だから、何も心配していない」

「全能の神はゼウスだ。アラーではない」
 朴が反論した。

「気の毒に君はアラーの裁きを受けることになるだろうな。友達として、お前を改宗できなかったことについては俺も罪を背負っていることになるな」
 アリは深刻そうな表情を浮かべて言った。

「話が逆だ。俺こそ、友達のお前を主の御許に導けなかったことについては、大きな責任を感じている」

 ふたりとも深刻そうな表情になってしまっているが、俺にはどっちでもいいことだった。

 それよりも、そんなことで(そう、俺にとっては”そんなことで” なのだ)ふたりがいがみ合わなければ良いがと思っていた。
 でも、俺同様、ふたりも死んだという自覚はあるようだし、友達だったという感情も残っている。
 だけど、生きている時、宗教について真剣に話したことはなかったんだろう。もし、話していれば、このふたり、とても友達なんかじゃいられなかったはずだ。

「まあ、まあ。そんなこと今更議論しなくったって、もうじき分かるんじゃないの? 」

「ヨシダ。俺たちふたりともお前のことを一番心配してるんだよ。無宗教なんて悪魔と同じなんだぜ。…… 分かるか? 」

「そうだよ。朴の言う通りだ。どっちにしろお前が一番罪深いということになる。
 ブッダさえ信じていないんだろう。恐ろしい裁きが待っていなければ良いんだが…… 」

「心配してくれてありがとう。
 お前達の信仰を批判するつもりはないけど、考えてみろよ。地球はひとつしかないんだぜ。アラブに生まれればまわりじゅうイスラム教徒だから必然的にイスラム教徒になるだろうし、欧米に生まれればクリスチャンになる可能性が高い。韓国もだな。
 それが罪なのかよ。俺は、神社に参拝した足でお寺に行って墓参りしたとしても誰にも批判されない国に生まれ育ったからそうなっただけだ。
 クリスチャンじゃなくたってハロウィンやクリスマスはやる」

「Oh myGood! 無節操すぎる。神に対する冒涜だ」

「それは、俺も朴とまったく同感だ。ヨシダ、お前は本当に哀れな奴だ」


「おい、そこの3人。喋ってないで、早く手続きを済ませろ、早くこっちへ来るんだ」

「なんか知らんけど、えっらそうな親父が呼んでるぜ。確かに喋ってたってしょうがない。行こ」
と俺は先に立って歩き始めた。

 石造りのおっそろしく高い塀の真ん中にアーチ形をした門があり、門番みたいな親父が立っている。

「ああっ? 宗教はなんだ? 」

「えっ? …… 一応仏教かな? 」

「”一応仏教かな? ” ってのは何なんだ! 
 はは〜っ、お前日本人だな。日本人はそんな奴ばっかりだ。…… まったく、あと、あと。
 そっちのふたり来い」

「ああ、私はアラーを心から信じている。礼拝も欠かせたことは無い。コーランも諳んじている。どうか神の寛大なお裁きをいただけますように…… 」

「分かった。モスレムは左側の受付に行って、一番手前だ」


 門の中を見ると、子机を並べて受付らしきものが左右にずらっと並んでおり、それぞれの宗教の礼装を身に着けた者が新入者たちに応対している。

「次、お前もやっかいな日本人か? 」

「いえ。私は韓国人です。敬虔なクリスチャンです。ジーザス・クライスト、主のお裁きを受けに参りました。例えどのようなお裁きが下されようと、すべては主の御心、甘んじて受け入れます」

「あっ、そう。じゃ右側一番手前ね。カトリックとかプロテスタントとかそういうのは受付の方でアンケート書いてもらってるから、そん時に。
 さあ行って。…… さてと、面倒臭い日本人来い」

 なんか、ステージがいっぱいある大劇場かスタジアムで、まるでファンの選り分けをやってるみたいだなと思った。
「はい、AKBのファンの入口はこっち、モモクロはあっちの入口」
とか
「レッズのサポーターは右へ行って…… 」
とかね。

「おい、お前だよ。ぼーっとしてんじゃ無いよ」
 呼ばれたらしい。

「あ、はい」

「で、一応仏教とか言ってたけど、信じてんのブッダ、いや仏さん」

「いや、特に…… 先祖は敬ってますけどね」

「ふん、やっぱり無宗教か。同じ仏教国でもタイ人なんかとはえらい違いだな。
 えーとね、中の受付、信者数の多い順にならんでるから。だから、クリスチャンとモスレムは一番手前。仏教徒だったらその隣なんだけど、残念だったな。無宗教はずーっとずっと先だ。
 一番外れ」

「そんなにあんの? 宗教って」

「有る有る。世界中には数えきれないほどの宗教があるんだ。
 お前は知らんだろうけどな。今年出来た新興宗教の受付だってある。
 どうだ公平だろう」

「宗教って名が付けば何でもいい訳? どれが正しいとかって無いの? 」 

「そんなこと俺は知らん。ただ、与えられた仕事を真面目にやっているだけだ。
 大体、どれが正しいなんて分かって無いから無宗教なんだろう。そんなこと知りたきゃ中へ行って聞け。後がつかえる、ほら、もういいから行け! 」

「で、どのくらいあるの? 外れまで」

「さあ、1キロか2キロか…… 俺は行ったことが無いから知らんよ」


 ってな訳で、ごった返す入口から人の波をかき分けて歩き出したんだけど、1〜2キロどころか5キロくらいも歩かされた。
 こんなことなら、仏教徒だって言い張って手近で済ませるんだったなと思った。
 ひとの数はどんどん減っていって、1キロを過ぎた頃には暇そうな顔をした受付が人待ち顔でこっちを見ている。

「ねえねえお兄さん。コロロン教いいよ。正しい神の教えだよ。
 今からでも遅くない。悔い改めるのに遅すぎるってことはないんだ。お話だけでも聞いてみて。
 今入信すると特典も付いてるし…… 」

 何だよ呼び込みまでやるのかよ。ここは歌舞伎町か!
 やっとのことで外れが見えて来た。
 まったく人けの無くなった手前の受付を後目に、ここだけは少しは人が並んでいる。
 見た目では全部日本人のようだ。受付をやっている方も日本人らしいが、他の受付の人がすべて宗教的な礼装をしているのにひきかえ、無宗教の受付は黒のスーツに黒のネクタイ。
 礼装と言えば礼装なんだろうけど、葬式の受付の人と同じじゃねえかよ。
 そう言えば、俺の葬式ってやってくれたのか。まさか、まだ山ん中に埋められてたり、海の底に沈められたまんまで行方不明者扱いになってんじゃないだろうな。
 なにしろ、生前の記憶のほとんどが無い訳だから、それすらも分からない。
 3人一緒に病気で死ぬ訳無いから、事故にあったか殺されたか、いずれにしろあんまり良い死に方はしてないんじゃないかな。
 ま、痛さも苦しさも覚えていないんだからそれは助かるけど。
 列の最後尾に無言で並んだ。前の男が振り返った。

「日本人か? 」

 聞いてきたのは50過ぎに見える痩せこけた男だった。
 死ぬとあの世では皆20歳頃の若くて健康な頃の姿に戻るなんて映画、確かDVDで見たことがあるけど、あれ嘘だったんだね。
 多分癌か何かで死んだ人なんだろう。 

「あんた、若いのに気の毒なことになったんだね」

「えっ。って言うかなんか良く分かんないんですよね」

「そりゃそうだ。自分が死んだなんて誰も認めたくはない。俺だって…… これはきっと夢なんだって、そう思ってる」

「いや、俺の場合、死んだんだってことは疑う余地も無いくらい、なんかこう分かってるんですよ。何故か分からないけど…… 」

「俺もそうだ。だからこそ信じたくないんだ」

「あのぅ…… 死んじゃってる訳だから聞いても大丈夫だと思うんですけど、癌だったんですか? 」

「分からない。それが分からないんだよ。生きてた時の記憶がほとんど無い。
 死んだんだってことだけは分かるのに、何故死んだのか全く思い出せない。家族が居たのか居なかったのかも分からない。だから、いらいらする」

「う〜ん。でも良かったんじゃないですかね。もし癌だったとしたら、相当苦しい思いをしたでしょうし、家族が居たとしたら、残して来た人たちへの思いで苦しむでしょう。
 …… だから、全部忘れてしまってそれでいいのかも知れない。そう思いませんか? 」

「ふふ。50ずら下げた男が、君のような若い者に諭されるとはな。はずかしい」

「いえ、俺って、なんかあんまり良い人生歩んで無かったのかも知れない。だから、思い残すことがないのかも…… 」 

「そんなことは無いだろう。短いが充実した人生を送っていた。どうせ覚えていないのなら、そう思った方がいい」

「俺、イラン人と韓国人の友達ふたりと一緒に死んだらしいんですよ。
 大学生で、友達になった留学生たちと一緒にドライブ中事故に巻き込まれて死んだ。 
 それが最良のシュチュエーションで、最悪は、裏社会でヤバいことをやっていて、殺された。どっちですかね」

「どっちが最良でどっちが最悪か分かってるんだから、最良の方に決まってるだろう」

「今度はこっちがなぐさめられましたね。さすが年の功」

「はい、次の方」 

 気が付くと前の男の番になっていた。

「そこそこのご年配のようですけど、信心は持っていなかったんですか? 」

「いや、家に仏壇はあって毎日お線香は上げていたし、お墓参りにも行っていました。
 あ、不思議だ。ほかのことは何も思い出せないのに、これだけははっきり覚えている」

「ええ、そういうことになってるんです。それは気にしないでいいですから、質問に答えてください。
 その、仏壇に手を合わせている時、あるいはお墓参りに行った時、どんな風に思いながら手を合わせていたのですか」

「ええ、毎日を無事に過ごせることを父母や先祖に感謝し、今後の無事幸いを願って手を合わせていたと思います」

「お釈迦様を具体的にイメージして拝んだことはありますか? 」

「いえ、そういったことは無かったかと」

「仏は居ると思いますか? 」

「亡くなった人のことを仏になったと言いますよね。また、お釈迦様とか、そういう本来の仏様もありますしね。
 死んだら皆仏様になれるなら、今の私は仏様ですか? そんな訳ないような気がするし、正直良く分からないですね」

「質問を変えましょう。あなたは、未来永劫の存在である仏陀を信じますか? 」

「いえ、真剣にそう思ったことは無いですね」

「ふ〜ん。典型的な日本人の心情ですね。信仰心が全く無いとは言えない。…… もし、あなたが、今からでも仏の教えを一から学びたいというなら、紹介状を書きましょう。
 それを持って仏教徒の受付に行けば、面倒な手続き無しで受け付けてもらえるでしょう。また、長い道のりを戻ってまでそうする気が無いなら、ここで受け入れます。どうなさいますか? 」

「…… う〜ん。やっぱりここで結構です」

「そうですか。では、これを持って向こうでお待ちください。はい、次の方」

 もう、俺の言うことは決まっていた。

「俺、ここで結構です。受け付けしてもらえませんか」

「罰が恐ろしくは無いのか? 」

「この5キロほどの道の両側に並んだ受付の数ほど神や仏が居るんなら、その神や仏は現世ではどうやってシェアリングをしてるんでしょうかね? 
 熱心な信者を沢山作って彼等信者をして少しでも多くの信者を獲得させた神仏が力を持つ。
 現世では確かにそうです。まるで田舎の選挙と同じじゃありませんか。
 そして、ひとつの信仰を持った人は、他のすべての宗教から見れば”救われぬ者” ということになりますよね。
 でも、本人は正しい信仰を得たと思っている。他は皆インチキ臭い似非宗教だとね。
 なにしろ、絶対神や未来永劫の仏が何人と言っていいのかいくつと言っていいのか分からないけど、いっぱいいたら変ですよね。
 ということは、ある宗教だけが正しくて、あとはみんなインチキということになる。
 それぞれの信者は皆、自分の信じている神あるいは仏だけが正しくて、他は皆インチキと思っている。
 ”唯一無二” ってそういうことですよね。
 だから、他を否定し、憎しみ合う。宗教が憎しみや争いを生んでいないと誰が言い切れるんですか。
 ……で、どの宗教も言うことは同じ。”死んだ時に、我々の信仰が正しかったということが証明される” 
 歴史上宗教が原因で起こった虐殺や戦争なんて、掃いて捨てるほどあるじゃないですか。
 信仰が平和をもたらすなんて、最大のアイロニーじゃないかって、俺は思ってるようです」

「はっ、はっはっ。こりゃたまげた。筋金入りの無神論者だな。
 君は良く、モスレムのアリという男に殺されず友達でいられたもんだ。多分生前には、宗教の話などまったくしなかったんだろうな。
 他の受付に行ってそんな話をすれば、君は間違いなく、”鬼だ悪魔だ。地獄へ落ちろ” と罵られ追い払われることだろう。ここで受け入れるしか無い。大六天魔王以来の頼もしい同志を歓迎するよ」

小説のコメントコメント
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2019/10/06 14:51 青木 航



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