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SF/ホラー/ミステリー

『ソンデルマ 10 屈辱』

青木 航著



 拘留されてから、どれくらいの時間が経ったのだろうか?
 一日経ったのか、数時間に過ぎないのか、或いは、まだ、数十分しか経っていないのか。皆目分からない。
「目映いばかりの光の中で」と言う表現は、小説なら、幸せで希望にみちた場面を描写する際に使われるものだろう。精神的拷問の描写に使われるような言葉ではない。
 だが、その「目映いばかりの光の中で」、いつまで精神を正常に保てるだろうかと言う不安が、私を苛む。
 それでなくとも、拘留前夜は体調不良に耐えていたのだ。やっと体調を戻し、「さあ、決戦だ」と意気込んだ矢先の、突然の逮捕。
「集中して何かを考え続けるしか、自分を保つ方法は無い」
 そう心に決めはしたが、その自信すらも刻々失われて行く。
「ゾラの演説を手に入れた時、直ぐにも公表するべきだったのか」
 そう悔やんでみたが、そんな事で今の事態を回避することは、やはりできなかったろうとも思う。敵は、長い時間を掛けて、着々準備を進めて来ていたのだ。
 恐らく、ピアルクやケルマーも逮捕されただろう。
 しかし、途上国ならともかく、腐敗が進んでいたとは言え、曲がりなりにも民主主義を維持して来た先進国で、軍事クーデターなど本当に起こせるのか。
 国防省の幹部を側近で固めていたとしても、制服組の幹部まで掌握出来ていたのか。
 今回の事が、ゾラの誇大妄想に基づくものであって、実際には軍が動かず、不発に終わってくれる事を、私は切に願った。
 ゾラと取り巻き達が逆に逮捕され、近いうちに、私は解放される。そう信じるしか無い。
 私の精神が崩壊してしまう前にそうなって欲しい。
 会議や議会での戦いしか、私は想定していなかった。こんな暴力的な方法で政権を奪取するなど、歴史上の出来事か、外国での出来事でしか無い。この国でそんな事が起こるはずは無い。そう思っていた。それは、私ばかりでは無く、国民の殆どが持っていた共通認識のはずだった。
 保安局の動きに疑念を持っていたとは言っても、それについては、人の体に出来た良性腫瘍程度のもの。切除してしまえばそれで済む。
 口では『民主主義を破壊するもの』と声高に国会で追及していた野党でさえ、本音ではその程度にしか考えていなかったに違いない。
 だが、それは実際には癌で、既に、あちこちに転移していたのだ。
『お前が甘かったのだ』
と言われれば、認める他無い。
 その後悔の念が強く沸き上がって来るが、一方では、私の精神は光に蝕まれて行く。
 とても眠れるような状態では無い。精神状態を正常に維持するため、必死で何かを考えて続けようとする。しかし、起きていながら、いつか夢の中にいる。
 夢の中にいながら、『これはまずい』と言う意識に目覚め、思考を続けようと、また必死になる。
 意識が遠退く頻度が、段々早くなって行く。
『まずい、まずい。こんな事が続けば、私の精神はいずれ崩壊してしまう。どうすれば良いのか? 』
 焦る気持ちはあるが、何も思い付かない。そしてまた、意識は、私の意志から逃げ出して行く。
 そんな繰り返しがどのくらい続いていたのか、もちろん分からない。体調もどんどん悪化して来ている。
 しかし、私はここで重要な事実に気付くことになる。
 ほかでも無い。生理的欲求に気付いたのだ。尿で膀胱が満杯になっているのだ。
 それを感じたのは、逮捕後初めてのことだ。
 と言うことは、逮捕されてから、まだ、数時間しか経っていないと言うことだ。それどころでは無かったとは言え、空腹も感じていない。
 とてつもなく長い時間と思っていたのが、わずか数時間のことでしか無かったのだ。
 光の中で、私は、眠れないことを恐れた。起きてから数時間しか経っていないのに、何故、眠れないことを恐れたのか? 説明が付かない。
 恐らく、『この状態が続くなら、眠ることも出来なくなる』と言う不安が、その時のことと錯覚され、入れ替わってしまったのだ。
 自分では、まだ正常な判断が出来ていると思っていた時点で、既に思考回路に齟齬が生じていたのか?
 目映いばかりの光に曝されているとは言え、僅かな時間で、そんな事が起こり得るのか?
『この部屋の空気の中に、何かの薬物が混入されているのではないか? 』
 そんな疑念が沸いて来た。
 尿意が強く感じられるようになって来た。もちろん、部屋にトイレなどは無い。
 垂れ流すしかないのか。しかし、それを繰り返すことになれば、屈辱感から自尊心が失われて行き、精神の崩壊が加速されることになるだろう。
 普通なら、看守を呼び、トイレに行きたいことを告げれば良いだけである。
 民主主義国はもちろんのこと、例え独裁国家であったとしても、最低限、それは認めるだろう。
 仮に誘拐犯でも、人間の尊厳をそこまで破壊しようとする者は、稀なのではないかと思う。
 そんな私の心理を、まるで読んででもいるかのように、壁に、例のグリーンのパネルが表れた。
『罪を認め、素直に供述する心の準備が出来たら、このパネルにタッチしなさい。それで君は、全ての苦痛から解放されるだろう』
との赤い文字が浮かび上がっている。
『尿意も含めてと言うことか』
と私は思う。
 心が折れそうになる。
 パネルにタッチし、看守に
『トイレにだけ行かせてくれ』
 そう言おう。垂れ流しだけはしたく無い。
 私は、思いきってパネルにタッチした。
 すると、表示された文字が変わった。
『自白する気になったのなら、もう一度、タッチしなさい。タッチする理由としては、それ以外のどんな選択肢も存在しない』
『やはり、そう言うことか』
 私は、例え膀胱が破裂しても我慢するしか無いと思った。即ち、死を覚悟した。
 だか、結果はだらしないものだった。
 苦しめられている光さえも気にならなくなるほどの苦痛を我慢しはしたが、一瞬の気の緩み。
 じわぁと股関に暖かいものがひろがった。慌てて止めようとしたが、もう無理だった。
 暖かいものは、股関から太股から膝下へと広がって行き、足許に尿の溜まりが出来る。
 屈辱感に、私は打ちのめされた。

小説のコメントコメント
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2019/09/23 01:51 青木 航



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