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SF/ホラー/ミステリー

『へいたいさま;1』

飴傘著



 ぼくたち人類が今後も繁殖を進めていくために必要な概念は平和ではない。戦争である。

*
 ぼくには一時期、言葉を失ったころがあった。
 声を出そうと体を緊張で縛り上げても逆効果だし、周囲はぼくの緊張を催促させていくだけで、与えてくれるものは何一つなかった。
 まるで酷い金縛りにあったような、言葉を発するとそんな不快感が電流みたくにぼくを悩ませる。
 
 これはどうしようもないな。
 きっとなにか、わるいものでも憑いているんだろう。

 考えては、また自分の愚かさに気付く。
 めんどうが嫌いな大人たちは世界におけるあらゆる厄災、例えば宗教関連の大虐殺だって、この世に存在を認められないような空想に濡れ衣をきせてやり過ごそうとしている。
 これは大きな間違いだ。何故なら、全ての運動は因果関係が正常に成り立っている故起こる現象なのだから。

 ある日、夏の頃に珍しく蝉が啼かない日があった。雨が降っているでもなく、なぜだかしら、全く何も聞こえない晴天の青い日があった。その不気味な、鉛のような沈黙を得た日に、父はなにを見たのかぼくが言葉一つ発しないことに気付いた。
「あぁ、これはいけないね。精神を病んでいるんじゃないかこの子は」父は左の手首をかきながら言う。
「安東の医者にみてもらうか」
「あらいやだ、あなた。安東サンのところは耳鼻科じゃないの。精神科なら"おとなりさん"よ」
 漆(ウルシ)の塗られた盆にお茶を三つのせてきた母はぼくを見て笑った。

「行きたくなくちゃあ、早く喋ることね」

 しかし、ぼくの思考に反して声だけはどうしても出てくれない。
 それから一年ほど経って、ぼくがあまりに言葉を発しないと痺れをきらした両親は"おとなりさん"へ相談に行った。そこでどんな議論が交わされたのか、ぼくは一週間に一度、"おとなりさん"の家に足を運ばなければならなくなった。
 "おとなりさん"についてぼくは殆どなにも知らない。不安ばかりが募っていく。
 ぼくはどうにも、人見知り症らしかったのだ。

 
*
 雨もよいの天気が彼の気を悪くさせていることに、私は気づいていました。彼の最も嫌いな、雨空となぜだか肌寒い南の風がふくような天候は思ったよりも長続きして、私と彼のいる部屋の空気を重たくしていました。天空の分厚い雲よりも重く、そんな沈黙。
 私には到底破ることなどできません。
 ところで昨日、お隣に住むご夫婦が彼のもとを訪ねて来ていました。なにか思い悩んでいるような、それでもお気楽な、天然の空気がたえまなく入り込むのがお隣の家族であると私は考えていたので、まさか息子さんが"おしゃべりできないようになった"と彼から聞いたときにはそれはそれは驚いて、飛び上がってしまいました。
 その時、彼と隣のご夫婦は私のある部屋の一つ右の、重たい扉の隔てる向こう側でお話していたので、彼が話してくれるまでその内容を知らずしている。そんな状況はよくあることで、彼は私に心の全てをおおっぴらにはしないのだ、と私はきちんと分別して接していたのです。

「明日には、隣の子供が来るだろうね」

 彼が口を開きました。私はもとからにこりとした形状の頬を、心の中で引き上げながら、

____そうね、楽しみよね。

 と言ってあげました。


小説のコメントコメント
この作品の著作権は、作者である 飴傘 さんに帰属します。無断転載等を禁じます。

是非ともご批評おねがいします。
               飴傘。
2018/04/04 12:56 飴傘



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