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『第61回短歌研究新人賞受賞作「この人を追う」』

工藤吉生著




短歌研究新人賞は雑誌「短歌研究」で年に一回おこなわれている公募です。未発表作品30首を対象としていて、本賞は賞状、副賞は賞金20万円。
この年の応募の有効総数は545。
川谷ふじのさんの「自習室出てゆけば夜」との同時受賞でした。


選考の様子などくわしいことは「短歌研究」2018年9月号に掲載されています。

短歌の雑誌を読まないけど短歌に興味のあるみなさん、雑誌を買い逃してしまったみなさん、遠い未来の読者であるみなさん、新人賞を狙うみなさん、そのほかここを見ているみなさんにこの作品をお届けいたします。








「この人を追う」  工藤吉生



砂嵐以外は何も映さないテレビを思う 風の水面に

公園の禁止事項の九つにすべて納得して歩き出す

キスをする距離のふたりがオレのいるあいだはせずにいてくれていた

てのひらで暴力団を止めようとしてる女はポスターの中

マスタード・ケチャップ同時にかけられる便利パックも散乱のゴミ

ボケというひどい名前の植物の背丈がオレとそうかわらない

左肩にかけてたカバンを右肩にかけてパラレルワールドみたい

黒髪を生やす力のおとろえた頭を下げて求めたゆるし

力の限りがんばりますと言わされて自分の胸を破り捨てたい

「サイコロをもう一度振り出た数を戻れ」もどれば「一回休み」

〈ラーメン〉と赤地に白く染められた決定的な幟はためく

並盛りと言ってもかなりの量がくるしきたりを受け入れてわれらは

コクとキレ知らないものを知っているみたいに半ばまで来てしまう

スープまで飲み干し思う破滅から地球を救い胴上げされたい

現金のように使えるポイントのもう戻れない無垢の心に

この人にひったくられればこの人を追うわけだよな生活懸けて

頭を掻くつもりで上げた左手の先が帽子の中へ潜った

考えず腕組みをして不機嫌に見えそうだなと思ってほどく

何をしても落ちなさそうな黒ずみに両足で立ち〈1〉と〈閉〉押す

ひらきだす自動扉の前に立ち通れるようになるまでの無為

むらさきとピンクの歌が漏れているこのスナックの名を「蘭」という

なんとなくいちごアイスを買って食う しあわせですか おくびょうですよ

わかるけどそうは言っても死んだまま一生過ごすことはできない

脱ぎ捨てた靴下ふたつの距離感を眺めていれば鳩時計鳴く

全身に力こめれば少しだけ時間を止められないこともなくない

手を腰にやってコーヒー牛乳を飲んではみても傷もつ心

トリックをすべて解かれてうらみつらみねたみを2分言う殺人者

次にくる年号を予想する人がテレビの中に座ってて邪魔

水を吐くオレを鏡に見てしまうモザイクかけておいてほしいな

見たくもないものが日に日に増えてくるオレの一人の部屋の消灯

詩/短歌/俳句のコメントコメント
この作品の著作権は、作者である 工藤吉生 さんに帰属します。無断転載等を禁じます。

2018年、第61回短歌研究新人賞をいただいた短歌連作「この人を追う」30首をここに掲載いたします。
2018/12/06 11:14 工藤吉生



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