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現代小説/歴史小説

『私がパンを嫌いな理由』

Killer Lady著



いつも通りの朝。
いつも通りにコーヒーを煎れて、いつも通りにテレビをつける。
季節は夏。
テレビに映る可愛げなニュースキャスターは、いつもと変わらぬ笑みをその顔に浮かべ、何人もの男達を虜にしているだろう甘い声で、次のニュースです、なんて言う。
ニュースキャスターというものは残酷だな、と思う。
どんなに残虐な殺人が起きても、どんなに悲しいことが起きても、次の瞬間には、何事もなかったかのように笑顔を作り上げてしまう。
それもこれも全て、いつも通りの風景。
何一つ違わない。
それで良かったはずだった。
一度覚えてしまったものは、忘れがたいものだった。
あの日、まだ冬の、ひんやりとした空気が寒い朝。
あの日だけは、いつもと違った。
起きて惰眠を貪っていると、隣に感じた人の温かい体温。冬の冷たい空気に晒され、鼻先を赤くして、まだ夢の中にいたあの女。
少しだけ、たった少しだけ、
愛しいと、そう思った。
それは親愛や、家族愛などではなかった。
自分にこんな感情があることに、驚いた。
柄にもなく、女に優しくした自分が、自分ではないようだった。
本当は、あんなことを、あの女とするつもりは無かったのだ。
あいつは部下で、それももう10年以上の付き合いにもなる。
俺はあいつを、まだクソガキの時から知っていて。
部下、それ以上の感情など抱くはずもないと思っていた。
あいつを拾ったとき、あいつはまだ10歳だった。
それに対して俺は26歳で、年の離れた妹を持った感じだった。
あいつは拾ったときから既に賢く、頭のネジが飛んだ奴だった。
女なのに、自分を飾ることに興味を持たず、俺の仕事にばかり興味を示した。
仕事、というのは人に自慢出来るようなものではない。
マフィアやヤクザなどと呼ばれる、暴力と金と所謂ドラッグというものに手を出し、人を奈落へ突き落とす。
それが俺の仕事だ。
俺は、それなりにでかいその組織の頂点に立っていた。
計算高いと言われながらも、人に情けをかけてこなかった自分を、人は鬼の用だと比喩し、夜叉と呼んだ。
そんな俺は、仕事の商談の後、見つけたのだ。
気まぐれに通っていった路地裏の奥で、倒れていたあいつを。
拾ってやったのは気まぐれであった。
顔に深い隈を作っていたが、それなりに整った顔立ちをしていたし、猫を拾うような感覚だった。
自宅に連れ帰り、冷えた身体を毛布で包んでやってから、飯の支度をした。
随分幼く見えるそいつが何を好きかなど知る由もないし、俺はリクエストに応えるような優しい大人でもなかったので、自分が食べたかったものを作った。
目が覚めたそいつは、当然だが驚いていた。
目をぱっちりと開き、ぶんぶん首を振って部屋を見回すそいつを、笑わずには居られなかった。
ふとそこまで考えて、嫌なことを思い出す。
13年間、妹のように可愛がったあいつは、俺が手を出した翌日のあの朝、俺が飯を作っている間に出ていってしまった。
あいつが好きなサンドイッチ。
クロワッサンに、切れ込みを入れ、サラダとベーコンを挟んだだけのそれを、あいつは好んで食べていた。
俺が作ってやると、嬉しそうな顔をした。
だからあの朝も、睡魔の誘惑を無視して、あいつのために作ってやっていたのだ。
それなのに。
出て行ったあいつは、その後二度と俺の前に現れなかった。
寂しいと、感じた。
あいつと過ごした13年という歳月は、余りにも長く、それでいて脆かった。
あいつが居なくなってしまえば、もう、意味のないものだった。
裏切られたような感じで、とても、あいつとの思い出を懐かしむことは出来なかった。
あいつが出ていってから2年。
女ながら俺の仕事の右腕として活躍していたあいつが居なくなると、少しばかり組織の奴らに不安が走ったが、それもすぐになくなった。
そして、2年という長い時間を、
そうして、変わることのない日常を、続けてきた。
夜叉と呼ばれた俺が、あんな子供に、クソガキに振り回されていた日々がもうこんなにも遠い。
遠い時間は、組織の中であいつを『裏切り者』にした。
皆、俺があいつを憎んでいると思っていた。
当然だろう。
あいつは、育ててやった恩を返さずに、黙って逃げ出したから。
それでも俺は、あいつを完全に恨むことが出来ないでいた。
俺から逃げ出したあいつが、それでもなお愛しかった。
あいつが居なくなってから、俺は生気をなくした。
仕事に支障は出なかったが、友人や組織の奴らには酷く心配された。
いつも通りのはずのこの朝は、あいつが居なくなったことで、いつも通りではなくなっていた。
朝が来る度に、もう一度、あいつに会いたいと思う。
会えなくても、一目見るだけでもいい。
どうしようもなく、寂しかった。
そんなこんなで今日も終わった。
何も感じられない、色のなくした世界は、とてもつまらなかった。











ある日、組織の奴らが、居なくなったあいつを見たと言う。
組織の奴らは口を揃えて、あいつを殺そうと言っている。
俺は、それは出来ないと言った。
非常だと言われ、それを強みに、組織の頂点まで上り詰めた俺も、愛した人を殺すなんて、考えられなかった。
だから、会うことにした。
あいつがよく出没するという店で、待っていた。
あいつは現れた。
昔と変わって居なかった。
懐かしい。それだけで、涙がでそうになる。
自分が想像以上に女々しくて、少しばかり苦笑した。
声を、かけた。
みっともなく手が震えて、その手に汗が滲んだ。
汗の滲んだ手が、自分のものではないように思えた。
あいつは拾ったときのように目を見開き驚いた。
その顔がはあまりに可愛かった。
殺意なんて1oも出てこなかった。
でも、あいつは言った。

私に関わらないで、今付き合っている人もいて、貴方のような人と知り合いだなんて思われたら、嫌なの。

右手で自分の唇を遊びながら、
確かな口調であいつはそう言って、俺から離れていった。
殺意なんて、あいつに殺意なんて抱くはずないと思っていた。
だが今はあいつが憎かった。
俺を置いて幸せになろうとするあいつが許せなかった。
その時の俺は、可愛いあいつをどう殺してやろうかとしか考えていなかった。
組織に戻って、俺はあいつを殺すために、組員にあいつのことを調べさせた。
あいつが住んでいる場所に押しかけてやることにした。
あいつがあの時言っていた恋人を、そこに連れていき、目の前で殺してやることにした。
胸の中で燻る感情には、蓋をした。












あいつの恋人に近寄り、仲良くなるふりをする。
恋人の男は、表向きは証券会社の代表取締役会長だそうだ。
裏では俺達のような組織に繋がっていることが分かっていた。
男はでっぷりと太り、いかにも悪人といった顔をしている。はっきりいうと、不細工である。
あいつはこんなのでも好きなのかと思うと、この男よりも自分が劣っているように思えた。
男は、恋人のあいつのことを、自慢するようにぺらぺらと話す。
やれ美人だの、やれ童顔だの、見た目のことばかり。
蓋をしたはずの感情が嫉妬をしているのに気づき、無理矢理話題を変えた。

男は恋人を自慢するために、俺を食事へ誘った。
あいつはパンが嫌いで、サンドイッチの類を作りたがらないということに少し驚いた。
あいつはパンを好んで食べていたように記憶している。
食の好みが変わったのだろうと、気にしないことにした。
男に誘われたその日、俺はあいつを殺す覚悟を決めた。









インターフォンを押し、扉をが開くのを待つ。
間もなく開いたドアから出てきたのは、似合いもしない服を着た男。
俺を招き入れて、奥の部屋へ通す。
そこには料理を並べて、椅子に座るあいつ。
お洒落などには興味を持っていなかったあいつが、めかし込み、そこに座っていた。
俺を見たあいつは、三度目の驚愕をその顔に浮かべた。
それを見た男は、あいつに知っているのかと聞く。
俺を見つめたまま固まるあいつは、男の声など聞こえていなかった。
変わりに、俺が答えてやる。

「その女、俺の部下で妹だった奴だよ。」

男は怪訝な顔をした。
意味が分からないといった様子だったが、ウザかったのでもうなにも答えない。
ただ静かに懐からそれを取り出す。
仕事でよく使うそれは、少し大きめのハンドガン。
あいつの目の前で、見せ付けるようにゆっくりと恋人とやらの頭に銃口を当てる。
男は混乱しているのか、銃を見つめて固まる。
あいつは恋人に銃口を向けられても、焦る様子が無かった。
ゆったりとした動作で安全装置を外す。
俺がトリガーに指にかけても、あいつは動かない。
視線を俺に向けたまま。
あいつがこの男をなんとも思っていないことが分かった。
ならば焦らす必要はない。
俺は引き金を引いた。

上がる血飛沫。

あいつが作ったであろう料理達は、手をつけられることなく、赤に染まった。

無言でそれに目を向けたあいつは、恋人には一切の目もくれず、笑う。

「あーぁ、せっかく作ったのに、勿体ない。」

悪びれもせず、ただ笑って言いかえす。

「そりゃ悪かったなぁ、この男を早く殺したかったもんで、我慢が出来なかった」

人の血で、染まった部屋で笑う男女。
異様な光景だった。

ふと女の方が、表情を無くした。

「ごめん・・・・・・」

絞り出すようなその声に、はっとして顔を上げる。
酷く、泣きそうな声をしていた。
かつて、俺と過ごした時も、あいつはそんな顔を見せたことが無かった。

女であるのに、男勝りな態度で俺に笑いかけていたあいつが、弱音など吐いたことも無かったあいつが。

「逃げるような真似してごめん...、」

その言葉を吐いて、あいつは堰を切ったように泣き出した。

俺にはその言葉の真意がわからなかった。

ポツポツと、あいつは話し出す。

勢いで俺の部屋から出た後、取り合えずコンビニに行こうとして、さらわれたこと。

それは自分達の組織の敵対するところの奴らだったこと。

そのボスらしき人物に、逆らえば総戦力で俺を殺しにかかる言われたこと。

そいつらは、今殺したこの男から情報得るために、自分をそいつと寝かせたこと。

そのことの延長で、交際を強いられたこと。


最後に、あいつは嫌だったと言った。

あんなのに従って、俺を裏切った自分を許せないと。



もう殺意なんて無かった。

ただ健気に俺を守ろうとしたこの女が、愛しかった。

「俺がそんな奴らに殺される訳ないだろう」

そう言って、彼女を強く掻き抱いた。

久しぶりのその体温に、安心した。

柄にもなく、俺は泣いた。










しばらくして、泣き止んだ彼女を血塗られた部屋から連れ出した。

向かう先は、13年間共に過ごしたあの部屋。

部屋につくと、彼女のお腹が鳴った。

顔を赤くして、お腹が減ったと呟く彼女に、何が食べたいかと聞いてみる。

「サンドイッチ、貴方の作ったサンドイッチが食べたい。」

そう答えた彼女に、俺ははてと首を傾げる。

「お前、パンは嫌いなんじゃないのか。あの男が言っていたぞ。」

俺が返すと、彼女は笑って答えた。

「だって、貴方が作ったもの以外は美味しくないよ。」

照れたようにはにかむ彼女は、すごく可愛い。

こっちまで照れてしまって、困る。

30の後半に差し掛かった俺が、こんなに照れるのは、はっきり言ってキモいだろうか。

もうそんなことはどうでもいい。

早く彼女にサンドイッチを作ってやりたかった。

もう、彼女を手放したくない。

これからは、本当の日常が送れる気がした。





















3年後






「おい、早く起きろ。全くお前は。」

「ぅん...後5分......」

「お前はそう言っていつも起きねぇだろうが」

「サンドイッチ......」

「もう作ってるよ。早く食え。」

「んふふ......」

「なんだ、へんな笑い方しやがって」

「んへへ」




今日も今日とて幸せです。





小説のコメントコメント
この作品の著作権は、作者である Killer Lady さんに帰属します。無断転載等を禁じます。

なんか変な方向に行きましたね。

おかしいところがたくさんあるのは承知してます。
気にしないでね(゚∀゚)アヒャ
2015/12/23 01:33 Killer Lady



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