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現代小説/歴史小説

『象に乗ってどこまでも』

小松 光一著



 朝起きて、ポストに新聞を取りに行くと玄関の前で象が待っていた。正確には象とその飼育員であろうインド人が。象は背中に御座のようなものを乗っけていて、インド人は象の足元に立っていて象の鼻をさすってやっている。ブルドックを連れた中年の女が早足で通り過ぎていく。これじゃ、目立って仕方がない。
 「あの、なんのご用でしょうか。」
 インド人に日本語が伝わるかどうか不明ではあったが、インド人はにっと笑い、言った。
 「お迎えにあがったのでございますよ。だからわざわざ象を。」
インド人はターバンのずれを人差し指で直してから、再び象の鼻をさすりはじめた。
 「お迎えって、どこに行くんです。まさかインドとか。」
 「そんなとこ、いくわけないのでりますよ。旦那。行先は永遠の快楽でございますよ。旅でござりますれば。」
 なんだか宮沢賢治の銀河鉄道の夜みたいだと思ったが、そんな空想的な考えはすぐに僕の頭から飛び去っていく。
 「曖昧なことはやめてくれ。永遠の快楽なんて。まさかあんた、麻薬の売人かなんかか。その象、実は張りぼてで中は全部麻薬だろ。」
 インド人はヒヒヒと笑い、僕の目を見る。
 「触ってみます?象でございますよ。正真正銘の。象から生まれた象でございますよ」
 僕は象に触れてみる。れっきとした皮膚。生物の感触。温度。ほんとに、象だ。
 「わかっていた抱けたでしょうか。お迎えに上がって、象に乗るまでこんなに時間がかかったのはあなたがはじめてでございますよ。ほら、乗って。みなさま、喜んで象に乗ってくださいますよ。ま、あなたのようにしぶるかたもいますがね。気持ちもわかりますが。」
 インド人が象の鼻をポンとたたくと、象の上の御座から、折りたたみ式の階段がパタパタと下りてくる。僕は階段を上った。寝巻のままだったが、さほど寒くない。
 「僕は象に乗って、家に帰ってこれるのか。」
 「そんな、永遠の旅に注文をつけることはできませんでございますよ。しっかりしたパックツアーでございますよ。あなたがご自身で契約なさったでしょう。契約なさらないでこの世にいらっしゃる方は一人もいらっしゃいませんよ。」
 そうか。僕は象に乗らなければならなかったのだ。御座の上は思っていたよりも座り心地がいい。
 「じゃ、行きますよ。」
 インド人が言うと、象が歩き始めた。それに合わせて僕の体も揺れる。三月の風が吹く。僕の家のほうからたくさんの人の声や救急車の音が聞こえてきたが、僕は振り返らなかった。
 象はどこまでも歩く。行先は知らない。インド人が言うことは曖昧すぎる。とにかく、象に乗ってどこまでも。そういうことだ。 
 

小説のコメントコメント
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2015/03/19 10:04 小松 光一



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