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現代小説/歴史小説

『残骸B』

小松 光一著




そうした低い唸り声の中で僕は語り始める。
 
 ムーンパークは大正の初め、ガス事業で財を成した実業家が彼の地元につくった遊園地だ。遊具はアメリカ産の輸入品だったし、建物の建築は東京駅をデザインした辰野金吾設計。現在の遊園地とは、ちょっと違うのかもしれない。月の塔、浴場、食堂、カルメ焼きの屋台。そのすべてに人々は魅了されていた。 だが間もなく戦争が始まる。幻想の都に陸軍のジープが砂埃を上げて乗り込み、まず月の塔が破壊された。片田舎にこんな建物があっては敵の攻撃目標になりかねないとの事だった。そして彼らは金属だけを接収して帰って行った。戦争がはげしくなり、ムーンパークは閉園した。鉄柵で包囲されたムーンパークは、まさしく死骸だった。戦争の中で、ムーンパークは人々の記憶に埋没していった。
 やがて戦争は終わる。ムーンパークの周辺には都市から食料を求めてきた人々で溢れ返った。すべての人がやつれはてた顔をし、焼け焦げたモンペ姿でムーンパークの残骸を通り過ぎていた。
 八十年代になってから、ムーンパーク跡地を利用した月世界ランドが開園した。このとき、辰野金吾の建物のほとんどが取り壊されてしまったらしい。その跡には安土城の模擬天守や、忍者屋敷、宇宙船型のゴンドラに乗るジェットコースターもできたし、ゾウの飼育場もできた。日本全国に散らばった、バブル時代の典型的な遊園地の一つだ。月世界ランドには非現実を求めた人々で賑わった。
 しかしバブル崩壊後、遊園地のオーナーが首を吊った。模擬天守裏のトイレだったらしい。オーナーの死は地元で話題になっただけで、人々の記憶の底に消えていった。そして月世界ランドは遊具や建物を残したまま閉園した。祖父の物語はいつもここで終わった。

 recの文字が消える。タマチさんは機械から伸びたコードをすべて引っこ抜いてから黒いバッグの中に押し込み、ファスナーを閉めた。
 「実際の跡地の取材ですが、夕方になってから行きましょう。夕方の廃墟の方が、昼間の廃墟よりも写真としておもしろいんです。現在、跡地は市有地になっているようで、私どもがすでにその許可はとりましたので。しかし、辰野金吾ですか。取り壊してしまったというのはもったいない。」
 僕は、辰野金吾についてよく知らなかったので、あいまいな返事をする。タマチさんは麦茶を啜りながら言った。
 「当時としてはただの建築家だったのでしょうね。彼。昭和に入ってから新築の東京駅、なんの面白みもない鉄骨の東京駅を見た人々は空襲で焼け、埋没した筈の東京駅を思い出す。そこではじめて辰野金吾の本当の偉大さを知るんです。それって、なんだか辰野金吾が生き返ったみたいじゃありませんか。」
 タマチさんの語りは静かだった。終わりは、生きている。
 「なんだか、宗教みたいですね。」
 宗教。言ってしまってから僕は考える。本当に残骸や死骸は宗教だろうか。たとえば祖父の死骸。それは何かのきっかけだったか。始まりだったか。死は生であったか。死骸は生き返ったか。そのどれも当てはまらないような気がした。
 「そういうものかもしれません」
 タマチさんは笑った。
 「老子もブッダもキリストも、ある意味生きた死骸でしょう。数千年前の死骸が未だ生きている結果。それが宗教かもしれません。」
 そうかもしれない。少しだけ僕は思う。蝉がうるさい。障子に、僕とタマチさんの影が大きくうつっている。座敷の外風景はオレンジ色になりつつある。青田にトンボが群がっている。あわただしい足音。虫でも捕まえたのか、数人の小学生の興奮した叫び。流れていく雲。そして、蚊取り線香の煙がゆっくりと昇っていった。タマチさんは再び麦茶を啜った。



 
 

小説のコメントコメント
この作品の著作権は、作者である 小松 光一 さんに帰属します。無断転載等を禁じます。

あと一回で完結させます。
2015/03/04 18:42 小松 光一



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