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現代小説/歴史小説

『姉ぞ愛しき−梶無編』

加馬土 登由著



サメマは大理まで退却し、踏み止まります。山越軍の追撃が厳しく、引き残ったのは十人のみ。
救援を待つような時間的余裕はありません。反撃あるのみです。ただし、単独では兵力不足です。蜀軍と連携することにします。
住民を尋問し、大理周辺の軍事状況を確認します。いったんは破壊した陣地を再構築し、敵の追撃に備えます。

サメマが軍事偵察のエキスパートです。生き残った部下達は、サメマが鍛え抜いた大倭憲兵隊員です。
短時間で、周辺の状況を把握します。すでに、南方と東方に山越軍主力部隊が回り込んでいるようです。
住民達は、いつの間にか、いなくなっています。食料と財産を持って逃散したのです。夜が明ければ、総攻撃して来るはずです。
西方の敵軍が間合いを詰めて来ているようです。敵将の夏名、夏羽の所在は不明です。
北方の攻囲が手薄であることが探知されます。金沙江の北岸は蜀軍が、かろうじて確保しているのです。
夏名はおそらく、その方面を曲線的に機動し、加速を付けて、強襲して来るはずです。そういう闘い方を好む戦士なのです。
闘う前に手の内が読めます。入れ違いに、そちらへ退却することにします。敵の大軍と比べて当方は小兵力過ぎるのが盲点です。
サメマと大倭憲兵隊は、闇にまぎれて北へ機動し、すれ違う山越軍を見送り、金沙江の北岸まで、退却します。

この一帯には、ユダヤ人が入植しているのです。蜀の宰相・諸葛亮の政策です。諸葛亮は、北伐のための軍資を
ユダヤ人の労働の成果を以って稼ぎ出しているのです。大理への強襲が空振りした、夏名の軍勢が北上して来ます。
金沙江渡河の準備をやりだします。夏名はサメマとの決着をつけたがっているのです。蜀軍将校は大慌てです。
非定期に侵攻してくる山越軍に何度も痛めつけられて来たのです。蜀軍将校は援軍を求めに行く、といって姿をくらまします。
敵前逃亡です。サメマは簡易陣地を構築し、ユダヤ人達に戦い方を教えます。武装開拓民として一応、武器は保有しているのです。

山越軍が渡河を開始します。サメマは部下と共に、反対に対岸へ渡ります。気配を消して近接し、渡河部隊の後尾に斬り込みます。
半渡の計です。激流の中で無理に反転しようとした山越軍の船は下流に大きく流されたり、横転したり、で大混乱です。
渡河に成功した山越軍前衛部隊が、ユダヤ人部隊に袋叩きにされています。サメマ隊は、再度、北岸に渡り、取り残された
山越軍前衛部隊を皆殺しにします。対岸では金沙河に投げ出され、泥まみれになった夏名が怒り狂っているのがわかります。
「オレ達の完全勝利だ。一握りの残党が逃げただけだ」と夏羽に説得されたのか、やがて、山越軍全体が撤収していきます。
追撃をあきらめたのです。夏名との決着は先延ばしです。

サメマは戻って来た蜀軍将校に、防御を強化するべく軍事的アドバイスを与え、金沙河ユダヤ人入植地を後にします。
雲南東部を経てベトナム方面へ移動します。山越軍の遊撃隊を撃破しながらの進軍です。小兵力の山越軍は弱いのです。
軍隊と云うよりは匪賊に近いのです。ただし山岳少数民族に生活基盤の根を持っており、村ぐるみで山越軍に加盟している
ことが多いのです。それでいて「親魏反呉」の大義名分を御大層に掲げ「人民解放」を標榜しています。
貴州境では、山越軍首領・迦陀は「七拳脛」の名で呼ばれています。迦陀の夷陵戦当時の首領名のようです。
「夏越」という国号も御大層に掲げています。「夏越女王・越夏(YueXia)」と云うのが迦陀の君主号です。
なるほど、チワン族本命ヤシイの漢語表音表記が「越夏(YueXia)」なのです。この女子が、華南、貴州、雲南の山岳地帯を
武力と略奪の悪魔的政治手法で恐怖支配しているのです。サメマは謎の悪党・迦陀の輪郭を徐々に明確化できて来ているのが
自分でもわかります。あと一息で、全体像を掴めそうです。

サメマは丁寧に一つずつ山越軍の村を潰して生きます。やがて、ハノイに着きます。町の周囲に稲田が広がっています。
町の顔役達を招集し、山越軍との絶縁と、大倭への忠誠を誓わせます。彼等に『任侠多島一家』の看板を掲げさせ、
団結を誓わせます。元は大倭海軍の拠点だった町です。迦陀が兵隊を連れて町を占拠し、従わない者を皆殺したのです。
サメマは生残りの憲兵隊を町の保安官として残置して、一人でトンキン湾岸に出て船を確保し、海南島へ向かいます。
大倭海軍が軍事拠点を再構築しているはずです。海軍との合流を果たしたサメマは、海軍幹部を幕屋に集め
軍事会議を開催します。山越軍の性格や体制を分析するためです。

海軍幹部連は一様に硬い表情をしています。サメマが越権的に、迦陀討伐に海軍部隊を動員したことを咎めているのです。
全滅した海軍部隊は、自ら望んで「仇を討ちたい」と志願して参戦したのです。ニギハヤヒ天皇が怒っているのか?
とも考えられますが、距離が離れ過ぎています。台湾島を中心に活動している海軍首領のタギシ耳が怒っているのです。
ニギハヤヒ天皇は即位して以来、大倭海軍の戦略に積極介入し、天皇特権による海軍利権の回収などをやっています。
サメマが封土されたインドネシア一帯も、元は大倭海軍の縄張りだったのです。タギシ耳は、天皇主導の一連の利権変動を
快く思っていないのです。天皇には逆らいようが無いので、憎しみの矛先が、サメマに向けられているのです。
サメマが独断で海軍陸戦隊五千を動かした事が、タギシ耳にエスカレーションされたのです。そして彼等は生還せず
山越軍との戦いで散華したのです。海軍幹部連が険しい表情なのは、当然の事なのです。

サメマは海軍陸戦隊が、どれだけ勇猛に闘い、立派な死に方をしたか、を長々と語り、彼等が戦死した事を陳謝します。
「山越軍二万が籠る根拠地に攻撃を仕掛け、海軍陸戦隊が勇戦して内一万を壊滅させた」などと仮想戦果を強調します。
実際は味方の損失六千に対し、敵の損失は千で、投入兵力は味方が六千に対し、敵は四千で、大敗北だったのです。
海軍幹部連の表情が少し和らぎます。最も階級が高い海軍将校が口を開き「タギシ耳が、もうじき、この島へ来る」と
教えてくれます。サメマは胎の中でインド洋からの迦陀討伐を考えています。ちょうど良い機会です。タギシ耳から
助言と助力を仰ぐ事にします。現在の大倭はインド洋王朝と和睦していますが、かってはタギシ耳がインド洋に遠征し
激しい戦いをしていたのです。タギシ耳はインド洋のエキスパートなのです。後年の事となりますが、タギシ耳の跡目を
奪った二代目タギシ耳は、インド洋海軍の首領なのです。その男が倭人伝の『都市牛利』です。そして、其の男こそが、
サメマが討伐しようとしている女子の次男坊なのです。物語の現時点では、其の男は、産まれて間もない零歳児です。

タギシ耳が来る前に、実務的事項を片付ける事にします。海軍偵察局が有意義な分析を提示してくれます。

「山越軍は海軍を持たないが、持ちたがっている。」

「山越軍はトンキン湾とベンガル湾を結ぶ軍事経路を既に確立している。」

「山越軍の実効支配領域は地下資源が豊富にあり、其の軍資は豊富である。」

「山越軍の実効支配領域は、雲南東部から貴州、五嶺を経て、井崗山系まで伸びる東方突出部を持つ。」

「山越軍の人的資源は、華南から流入する匪賊や傭兵崩れであり、その規模は無尽蔵である。」

サメマは議論を重ね、当面の軍事課題を結論します。
・山越軍のトンキン湾への進出を、断固阻止すること。
・山越軍の南ベトナムへの進出を、断固阻止すること。
・山越軍の東方突出部を、呉朝と連携して寸断すること。
上記の課題の基礎として、海南島を要塞化することも決議します。海南島要塞化の軍資をインドネシア王のサメマが
担保することを宣言します。サメマは、自らの必須課題である報復責務に、大倭海軍を巻き込むことに成功したのです。

タギシ耳が到着します。台湾島方面から、香港を経て来たようです。
「兄ぞ、愛しき!」とブッキラ棒に挨拶するタギシ耳に対し、サメマは高飛車に語りかけます。

「明(Ming)よ! 私はお前を必要としている。私はインド洋方面から、山越の巣に斬り込みたいのだ。力を貸してほしい!」
『明(Ming)』と云うのがタギシ耳の通称です。祖母の天照が、そう呼んでいるのです。某書では「天火明命」です。

天火明命ことタギシ耳が反論します。オデコに角のような突起が有る奇相の男です。~号「鴨建角身」です。
「勝手に事を決めないで欲しい。私の軍隊を勝手に動かす事も禁止だ! 報復はアンタ一人でやるべきなのだ!」

サメマは、ノリ突っ込みで、一方的に議論を進行させるヤリ手議長なのです。
「もちろん! だが、タギシ耳よ! 私はインド洋のことを知らないのだ! インド洋王朝との仲介役をやってもらえないか?」

一方的にタギシ耳を引き込み、サメマはインド洋王朝武装朝貢作戦を練り上げます。
タギシ耳にミャンマーのラムリー島まで、誘導してもらい、そこでインド洋王朝傘下のラムリー島海軍に、
サメマの磐船を引き渡し、その後はラムリー島海軍の先導で、インド洋王朝の首都・セイロン島まで航行する。
と云う段取りで落着します。セイロン島で鬼道女子・迦陀を、ありったけ中傷誹謗して、迦陀討伐の勅令を出してもらい、
サメマが其の尖兵となって、迦陀の本拠地に西方から斬り込む、と云う二段構えの戦略です。

「仲介料は、たっぷりと、頂戴するぜ!」タギシ耳が同意してくれます。

「あと、大事な事を教えてやるぜ! インド洋王朝への朝貢って事なら、先代天皇・伊邪那岐が既にやっている!
オレが船と使者を仕立てたんだ!」タギシ耳が驚くべき事を言い出します。

「何だって!」サメマにとっては初耳です。

「使者に持たせる高額の持参金も、オレのオヤジが工面させられたんだ!」タギシ耳が云いたいのは金の話のようです。

「今度は、アンタが自分で工面するんだ!」タギシ耳は吐き捨てるように言って席を立ち、幕屋から退去します。

サメマは、財産管理者である后の波礼に頭を下げて金を無心する、自分自身の姿を想像して暗澹たる気持ちになります。
とにかく、報復成就の道筋は出来たのです。あとは、其の道を走って、目的を達成するだけです。

サメマが乗り込んだ、タギシ耳の軍艦が海南島を出航します。行き先はスラバヤです。トンキン湾を横切り、シャム湾を横切り、
マレイ半島を南下して進行します。特に急ぐ必要は無いのです。安全速度で航行し、十日程で、スラバヤ到着です。
大倭海軍とインドネシア王のサメマが共同出資して、軍港建設の途上にあります。軍港建設の仕置きを済ませ、
波礼から大金を引き出したサメマは波礼を連れて磐船に乗り込み、タギシ耳の艦隊の誘導でマラッカ海峡へ向かいます。
マラッカ海峡を過ぎたところでマレイ半島側に上陸します。現在のクアラ・ルンプールです。
ここにインド洋王朝と大倭とが共同出資して設営した連絡センターが有るのです。
サメマはタギシ耳に従って連絡センターへ移動します。両者の御伴人も従います。

突然、爆発音が響き、連絡センターの建屋が吹き飛びます。タギシ耳が走り出し、サメマも追走します。
連絡センターの要員達が倒れています。尖刀で急所を刺されています。皆殺しです。迦陀の仕業です。
ヘッドギアで頭部を覆った、迦陀らしき密着着衣の女が馬を駆って、北へ、走り抜けて行きます。
サメマも馬を確保して、追跡します。迦陀は良く走る馬を用意したようです。差は広がる一方です。
街道には関所が多く有ります。捕捉可能なはずです。サメマはあきらめずに馬を駆り続けます。
関所が見てて来ました。迦陀は馬から跳び、関所の要員を屠殺して、走って逃走を続けます。サメマも馬から降り、
追走します。脚力もサメマとは段違いです。差は広がる一方です。しかしサメマはスタミナには自身があるのです。
あきらめずに走り続けます。しかし、差は広がる一方です。迦陀の逃走をサポートする山賊連が道を塞ぎます。
サメマが山賊連との戦闘を終了した時には、迦陀が視界から消えてしまっています。あきらめるしかありません。

タギシ耳は軍艦に戻っています。サメマはタギシ耳と密議します。

「作戦を続けるのか? この事件はインド洋王朝を怒らせることになる。見込みは薄いぞ! どうする? 」
タギシ耳が質問して来ます。

「当然! この目で迦陀の犯行をシカと目撃したんだ。その悪業をインド洋王朝に報告するだけだ!
計画を阻害する要因とはならない。朝貢の名分は、あくまで、大倭新天皇の即位通達と平和友好の宣誓だ!」
サメマが答えます。

「いいだろう! 好きにしろ!」タギシ耳は突き離し、密議を終了し、サメマを磐船に移動させ、
ラムリー島までのナビゲーション航行を続けます。

艦隊はラムリー島に到着します。タギシ耳は、其地の海賊衆に話を通し、サメマの磐船の誘導役を引渡します。

大陸に沿ってベンガル湾を航行し、セイロン島に到着。礼装したサメマと波礼が磐船から降り、インド洋王朝の政庁に
案内されます。政庁はタラガラ山麓に建つ~殿です。サメマと波礼は女~セラミスを礼拝し、平和と友好を誓います。
波礼はセラミスの顔が、自分とそっくりなのに驚いています。饗宴を済ませたサメマは、公安担当の重臣に謁見します。
迦陀による連絡センター爆破事件を報告し、迦陀の正体を暴露します。

重臣は驚愕します。連絡センター爆破事件を始めて聞くようです。サメマは迦陀に対して、時の利を得ていることを悟ります。

「迦陀と云う女は札付きの悪党なのです。我が大倭の先代天皇を暗殺したのみならず、蜀帝劉備玄徳閣下をも暗殺した悪魔です!」
サメマは煽りを入れます。

「なぜ、其の女が連絡センターを爆破したのでしょうか?」重臣が質問します。

「我が大倭と、この國とを、戦争させることが目的なのです。そして、鬼道女子は戦乱に付け込み、
この國を奪い取るつもりなのです。」

「我が連邦に新規に加盟を申告して来たインパール女王・越夏と、アナタが云う鬼道女子・迦陀とが、
本当に同一人物なのでしょうか?」重臣は不安げに聞いて来ます。

「間違いありません。其の鬼道女子・迦陀の行動履歴は私が、職責において、徹底してファイリングして来たのです!
荊州で関羽将軍を滅ぼす破壊工作をした迦陀は、蜀朝の成都でも破壊工作を行い、阿斯の名義で国際指名手配されたのです。
その後大陸から逃亡し、馬土の偽名を名乗って我が大倭本國に来たのです。大倭天皇の妾になりたい、と申し出て
料理ノ達人です、婢でも良いので使ってください、などと就職活動しています。天皇暗殺の下準備だったのです。
何の恨みがあるのか不明ですが、直後に大倭天皇暗殺未遂事件を起こしています。その後に呉王暗殺未遂事件を起こし、
警護の武官多数を殺傷しています。殺された警護主任の武将が、陸遜大将軍の御曹司です。大将軍は迦陀を深く憎んでいます。
更には七拳脛の変名で蜀帝劉備玄徳に近づき暗殺。雲南を制圧し、西進してインパールを占領。女王・越夏を名乗ったのです。
迦陀の正体は荊州南部で生まれたチワン族ヤシイです。キイという実兄がおり、ヤシイの軍隊で大将軍を務めています。
私は其のキイとも闘った事があります。悪辣で残忍な闘い方をする男です。キイは夏羽と云う変名を持っています。
夏羽には夏名という嫁がおり、こいつも札付きの悪党なのです。夏名は済州島出身で苅羽田刀辨と云う女ヤクザの上がりです。
夏名には伊邪那美という悪名も持ちます。大量殺人の達人です。大女で全身に蛇紋を入墨した両性具有者で七本指です。
迦陀は中国南部一帯に山越と云う犯罪的武装組織を構築しています。山越は殺戮と略奪に明けくれる匪賊の連合体なのです!
夏名にはイタイという息子がおり、こいつも札付きの悪党でしたので、先代天皇が、堪えかねて誅殺したのです。
強盗稼業で渡世していたイタイにはイマスという馬鹿息子がおり、勝手に倭王を僭称しています。イマスの母も札付きの盗賊です。
鬼道女子・迦陀は、この自称倭王イマスの鬼嫁なのです!」
サメマは山ノ~一族への、積年の恨みを込めて、迦陀と其の眷属達の悪口を語ります。

「もうすぐ、インパール女王・越夏の使者が、この島へ来ることになっています。私が対応役なのです。
どう対応すれば、よろしいでしょうか?」重臣が質問します。

「越夏とやらの素性や、生い立ちを詰問するべきです! 必ず綻びが露見するはずです!
信仰する~や、趣味や特技も、詳しく聞くべきです! 体型や年齢、ふだんの服装も聞いて見た方がよろしいです。
当方の調査では、越夏こと迦陀は214年生まれで、現在は推定12歳です。両親は魏朝の蛮族特殊部隊の戦士です。
越夏の使者は、おそらく、理由を構えて、大倭との戦争をするべきだ、と主張するはずです。
其の理由は全くのデタラメのはずです。そこを厳しく詰問するべきです! 使者は必ず虚構のボロを出すはずです。」
サメマが答えます。

「ずばり、お聞きしたい。アナタは我が連邦に何をお望みなのか?」重臣が質問します。

「越夏の國・夏越の連邦入りを却下して頂きたい!
そして、インドネシア王たる私に、越夏討伐の密勅を下して頂きたいのです!」
サメマが答えます。

「アナタの申し出は、評議にかける必要があります。元々の越夏の連邦加盟申請も、同じく評議にかけるところなのです。
評議会は、明後日に開催されます。アナタは一両日、この島で待機して頂きたい。よろしいでしょうか?」
重臣が発言します。

「もちろん! 評議会が賢明なる決断を下されることを期待します!」
サメマが答えます。

サメマは宿舎に戻り、云われた通り待機することにします。后の波礼は交易会議に呼ばれて忙しく活動しています。
何もすることがないサメマは、越夏を滅ぼす計略をひたすら考え、練り上げて行きます。天性の謀略家なのです。

~殿に評議員達が集結して来ます。事前の情報交換を行うのです。
一人の評議員が、重臣に呼び出されます。その男は諸葛亮の代理人です。蜀朝も連邦構成國の一つなのです。

「阿礼(ALi)よ! インドネシア王サメマの言葉を再現しなさい!」重臣が指令します。

阿礼は、重臣とサメマの会合に、重臣の秘書として控えていた男です。阿礼は正確に、音色まで、そっくりに、
サメマの言葉を復元します。阿礼は人間ボイスレコーダーなのです。

聞き終わった評議員が発言します。
「サメマの言ったことは、すべて真実だ! 一点、捕捉しておくと、夏羽と云う男は、越夏の実兄そのものでは無く、
実兄キイの名跡を取った、越夏の元部下で愛人の男だ! まあ、どうでもよい相違だがな!」

「我々は、どう審判すればよいのだ?」重臣が質問します。

「まあ、私の報告も、まずは、聞いてくれ!
諸葛亮は魏帝の排除に成功した! 他ならぬ越夏を暗殺者として使ったんだ。ただし、越夏と直接コンタクトしたのは、
魏朝の大将軍・司馬懿だ! これからも中国は乱世が続くことになる。」評議員が発言します。

「越夏は、今後も必要な人材、という意味なのか?」重臣が質問します。

「まさか! 越夏は、暗殺者としてトウが立っている。全盛期を過ぎたポンコツ、賞味期限切れの人材だ!
今後は使わない。つまり、要らない人間なんだ!
越夏は、曹操も暗殺している。安陽でな。その頃が、あの女の全盛期だった!」評議員が答えます。

「サメマは信頼できるのか!」重臣が質問します。

「まあ、ある程度はな。越夏に、ぶつける価値はある!」評議員が答えます。

「よろしい。明後日の評議会では、越夏排除の方向で、議論を進行させる事にする。」

日が明けて、プレ評議会が開催されます。越夏の特使が登壇し、越夏の人徳と、夏越國の生産性の高さ、をアピールします。
プレ評議会はある種のパーティなのです。評議員達は、酒を飲みながら、おもしろ、おかしく突っ込みを入れて来ます。
越夏の使者は、虚構の世界観を語り出します。野次られても平気なのです。夏越國の踊り子達が舞台で激しく踊ります。

日が明けて、本評議会が開催されます。越夏の特使が、評議員から質問を受け、回答する形式です。
質疑が、一通り終われば、採決の運びとなるのです。

「越夏の生まれ育ちは?」

「華南・桂林の豪商の嫡女です。高名なる春申君の血脈です。」

「特技は?」

「服飾です。」

「なぜインパールに来たんだ?」

「呉朝の陸遜大将軍の御曹司と結婚したのですが、その方が戦死したので未亡人となり、インパールに流れたのです。」

「越夏に子供はいるのか?」

「男子二人と女子二人がいます。皆、健康に育っています。」

「なぜ、越姓なんだ?」

「呉とは一線を画したいからです。呉朝に居た頃は、何も良いことがなかったのです。」

「料理は得意なのか?」

「はい、とても得意です。」

「狩は得意なのか?」

「はい、とても得意です。」

「狩の武器は何を使う?」

「調理箸を使います。」

「何で、調理箸で狩ができるんだ?」

「あ、いえ、間違えてました。狩では鏑矢を使います。」

「鏑矢を使うのは蛮族だけだぞ。何で鏑矢だんだ?」

「華南に生まれた事を誇りにしておりますので、華南名物の鏑矢を使うのです。」

「桂林の豪商だとか言って、本当は五嶺山中に住むチワン族じゃねえのか?」

「いいえ、越夏様は、チワン族ではなく、ヤオ族なのです。」

「五歳の時、ヤオ族の養女になった、って情報がある。どうなんだ?」

「いいえ、三歳の時です。五歳の時には、既にヒトカドの戦闘員でした。」

「キイって兄がいる、と聞いている。どうなんだ?」

「いいえ、キイではなくイガなのです。イガは義理の曽祖父の名前です。豚飼いをしていた人物です。」

「安陽では何をしていた?」

「病人向けの滋養食を作る、料理人をしていました。」

「淮河の河口で昼寝してた、って情報がある。どうなんだ?」

「いいえ。体に塩を塗って美容処理をしていたのです。日光浴が大好きな方なのです。」

「ふだんは斑点豹の皮剥を好んで着用しているのか?」

「いいえ、斑点豹よりも黒豹の皮剥の方が、お好きな方なのです。」

「得意料理は?」

「チキンの唐揚げです。」

「白帝城で何をした?」

「レスリングの練習をしていました。脚で相手の頸を挟み、振り回す技が得意なのです。」

「海南島では何をした?」

「軍事訓練を受けていました。一人で一万の精鋭を相手にするスペシャル・カリキュラムです。」

「済南では何をした?」

「ムエタイの練習をしていました。後ろ回蹴が得意なのです。」

「陸延を殺した技は、前蹴だな?」

「いいえ、得意の後ろ回蹴です。」

「夷陵では力量不足だったな?」

「いいえ、裏切り者が出たから負けたのです。」

「カムラン湾で何をした?」

「水中セックスです。」

「毒ガスを使ったんじゃねえのか?」

「いいえ、オナラをしただけです。余にも臭いので、敵兵がバタバタ死んでしまったのです。」

「陳武の養女になったことがあるな?」

「いいえ、陳武は古い名前です。陳秘が新しい名前です。諸葛城という別途の名前もあります。」

「陳秘の子供を養子にしているな?」

「はい、その通りです。よくご存知で。」

「生んだ四人の子供達の父親は、済州島の悪名高い犯罪者イタイだな?」

「いいえ、イタイの息子イマスの方です。この親子は揃って巨根の持ち主です。間違われ易いのです。」

「イマスの母親は、名うての盗賊だな?」

「はい、その通りです。よくご存知で。サル・オケツと云う笑える名前です。」

「殺した人間の数は?」

「ええっと、数え切れない位です。ざっと二万人前後かと。」

「なんで陸遜を目の敵にしている?」

「魏朝義勇軍・尾張に応役していた両親が、陸遜軍に殺されたからです。」

「何で成都で放火行為をしたのだ?」

「小説をパクられたからです。」

「なんで、KLの連絡センターを爆破したんだ?」

「火遊びが大好きだからです。胸パッドには、高性能火薬が収納されています。」

「連邦に加盟して、何をしたい?」

「大倭をやっつけたいのです。これが越夏様の宿願なのです。当方は海軍力を持たないのです。
その欠点を、連邦の各国に担保してもらいたいのです。マラッカ海峡を突破し、
スラバヤ、ブルネイ、マニラ、高雄を攻略する戦略を、越夏様は練り上げておられます。
越夏様は、百戦百勝の霊将なのです。逆らった敵を皆殺しにする、プライドの高いお方なのです。」

「なぜ、大倭が憎いんだ?」

「舅の大物主イタイを、大倭天皇が誅殺したからです。」

越夏の特使は薬を盛られています。自白剤です。徐々に効き目が出てきたのです。回答内容が支離滅裂です。
評議員達は笑いながら、質疑を楽しんでいます。質疑をすればするほどに、越夏の異常性が露見されていくだけなのです。
議長の重臣は、マトモな回答ができていない、という感じで顔をしかめながら、質疑を打ち切ります。
票決に移行します。反対多数で夏越國の連邦加盟は否決されたのです。

評議会にオブザーバー参加していたサメマは、票決の結果を確認すると、すぐに~殿から退去し、磐船に乗り込みます。
コロンボから出航して、ラムリー島に向かいます。ラムリー島でサメマは下船し、波礼は磐船でスラバヤへ向かわせます。
ラムリー島の海軍総長に面会します。越夏には、いずれ東征指令が出るはずです。越夏の軍隊を南シナ海に搬送するのが
ラムリー島海軍の仕事をして、割り当てされるはずです。越夏の軍隊が載るのは筏です。その筏をラムリー島海軍の軍艦が
牽引し、インド洋の真ん中まで運ぶのです。そこで牽引用の鎖を切り、筏を漂流させるのです。
筏に取り付けた梶は擬装です。すぐに壊れるように細工します。帆も擬装です。すぐに破れて風穴が開くように細工します。
波の荒いインド洋で筏が無事で済むはずが無いのです。この計略は、セイロン島海軍に既に伝達してあります。

越夏の特使は任務を果たせず、落胆しながら、浮脂まで海路を来ました。ここからはインパールまで陸路です。
浮脂は現在のダッカです。同伴していた連邦武官が、密勅を指令します。

「連邦加盟は否決されたが、大倭討伐の志は見事である。よって東征を勅令する。
ラムリー島海軍と連携して大倭討伐の聖争を遂行せよ! 東征成就の後、連邦加盟を認める。」

との主旨の勅令です。越夏の特使は喜んで馬に飛び乗り、走り出します。連邦加盟など、どうでもよく、
越夏が本当にやりたかったのは、大倭討伐の方なのです。インパールに到着します。
越夏も特使の報告を喜び、軍を興し、出陣準備を始めます。偵察員六媛女をラムリー島へ派遣します。
事前連絡の為です。偵察員Aが戻って来て復命します。大倭皇族のサメマが、ラムリー島に居て、筏作りを指揮していた、
と云う報告をします。怪しい話しです。越夏は、特使に評議会での議論を報告させます。越夏の正体を知る者が、
事前に通達を入れたのです。と云うことは、連邦が発行した勅令は偽勅なのです。越夏と其の眷属を滅ぼすための
計略なのです。偵察員Bが戻って来て復命します。サメマが作る筏は、梶がすぐに壊れ、帆もすぐに破れるように細工されて
いることを報告します。『梶無』の計略です。サメマが越夏の正体を暴露したのです。大倭がインド洋連邦と吊るんでいるのです。

越夏は自ら出撃してサメマを殺す事を決断します。密着着衣で武装しアラカン山脈を疾走します。
ラムリー島周辺海岸は、要塞化されています。難無く侵入した越夏は、浜辺の船工場に居るサメマを見つけ、
背後から距離を詰めます。尖刀を手にした越夏は、サメマに突進します。気配を察知したサメマは二本の湾曲した短剣を抜き、
振り返ります。越夏は、高く跳んで急降下します。サメマは横走り、円運動して越夏の着地点に刺突してきます。
かわしても、かわしても変幻自在の湾曲剣を繰り出して来ます。越夏にとって、こんな難敵は初めてです。
装着していた戦闘グローブがサメマの剣で引き裂かれます。ヘッドギアも寸断されます。
この曲者男は軍隊を使って、潰した方がよさそうです。
ラムリー島海賊連が集結し、攻囲の輪を作ります。本来なら友軍として連携するべき集団なのです。
サメマを殺す事は、簡単ではありません。サメマの剣には猛毒を塗り込んでいるようです。吐き気がして来ました。
海南島で闘った、この男の部下連中とは、段違いの強さです。越夏はサメマ殺しを見送り、撤収することにします。
助走をつけて、攻囲の輪を飛び越え、越夏は密林の中に姿を消します。サメマは追跡します。
越夏は密林の中を豹のように走って逃げていきます。今度はサメマが驚く番です。密林の中を自分より速く走る人間を
サメマは初めて見たのです。密林に遮られ、越夏が見えなくなります。強い体臭の女子です。臭いを頼りに追跡を続けます。
やがて、臭いも消えます。反撃して来る気配はありません。
サメマも亦、この場所での越夏殺しを諦め、撤収することにしたのです。

【姉ぞ愛しき−梶無編】完

小説のコメントコメント
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2020/07/09 17:52 加馬土 登由



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