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現代小説/歴史小説

『こんなに愛しているのに……』

此道一歩著




 父親の会社、光園持グループで常務を務める真一は、3年前、心に決めた女性、玲子に去られて以来、仕事に没頭することで、心の重苦しさを忘れようと懸命に務めてきたが、それでも半年ほど前から新たな女性との交際が始まり、二人は結婚を意識していた。
 
 報告を受けた真一の父、欣也の脳裏には玲子の娘、恵利佳の笑顔が浮かんだ。
 熟考の末、結婚相手に恵梨香の存在を隠すことはできないと考えた欣也は真一に全て話すことを決心した。

 その日、真一が帰宅したのは八時を回っていた。
「父さん、どうしたの? 難しい顔して、何の話?」
「うむ、お前は玲子さんのことを覚えているか?」
「そりゃ覚えているよ。彼女のおかげでここまできてしまったんだ。恨んではいないけど覚えているよ。彼女がどうかしたの……」
「……」
「誰かから聞いたような気がするけど…… 結婚して幸せに暮らしている、って」
「……」
「どうしたの?」
「うむ、彼女には三歳の娘がいるんだ」
 欣也がやっと口を開いた。
「ふーん、もうそんな子供がいるんだ……、えっ、三歳? 誰の子? 父さんの子か?」
 驚いてといかける真一に向って「ばかかお前は」欣也が笑いながら答える。
「そうか、俺に子供がいたのか…… そうか子供か、俺の子か……」
 喜びをかみしめるように真一の顔が次第にほころんでいった。
 
 翌日、意を決して好子に真相を打ち明けた真一ではあったが、話を聞いた彼女は別れを意識した。
「これから先、たとえどんなことがあっても、あなたはその二人から目を背けることはできないわよ。その人が結婚でもしない限り、二人を見守っていかなければならない責任から逃れることはできないわよ」 そう言い切る好子に
「……」真一は、その通りだ…… と思ったが言葉にはできなかった。 
「それにだいたい、どうして三年もの間、子どもがいることに気が付かなかったの?」
 好子は顔をしかめながら、子どもがいることを知っていれば、私達の恋は始まらなかったでしょ…… そんな思いで彼の傷口を突き刺した。
「全くその通りだよ、申し訳ない。親父は妊娠中から気が付いてずっと援助していたらしいが…… 俺には知らせて欲しくないという彼女の意地があったんじゃないのかな…… 」
「意地なの?」
「よくわからないが…… 」
「でもお義父様は気が付いて、ずっと面倒見て来られたのよね」
「別れて三カ月ぐらいした頃にわかったらしい、子どもができてからも俺には内緒で孫と遊んでいたらしいよ」
「そうなの……」

 お義父様はきっとその人が嫁いでくれることを願っている…… この結婚はその親子の最後の可能性を奪うだけでなく、お父様の望みを絶ち切ってしまうことになる。真一さんだって、既に子どもに心が向いている…… 早く会いに行きたいだろうに、私に義理だてして…… 

「あのさー……」沈黙に耐えかねた真一が言葉をかけると
「ごめんなさい、ちょっとだけ待って……」

 彼もお義父様も、決してそんな思いを表に出す人じゃない…… 今後彼らは私に遠慮しながらその子に会いに行くの? 私に子どもができたってその子にはかなわない…… 初めての子、初孫、絶対にその子にはかなわない…… 何もなければごく普通に我が子を愛して、ごく普通に目にいれても痛くない初孫を慈しんでいくことができる、彼らのそんな思いを私が不自由にしてしまうの…… できるわけがない、こんな結婚があって良いわけがない! たくさんの人の思いを心の奥に閉じ込めさせて…… そんなことがあって良いわけがない…… こんなに愛しているのに…… なんで? なんで私じゃだめなの…… 

 流れにまかせて思うがままに脳裏に言葉を綴った彼女の思考がここまで来た時、彼女は静かにに目を閉じて天を仰いだ。
 どうして私じゃなかったの……

 彼女は最後の言葉を天に向けた後、目頭にあふれるたった一粒の涙にそっとハンカチを充てると静かに目を開いて真一を見つめた。
 彼の前で見せた初めての涙であった。
 わずか五分にも満たない時間の中でこれだけの思いを巡らせ、自ら直感した思いに理論武装が加わってしまうと、彼女はもう振り返ることはしなかった。

「何をおいても、あなたにはその子とその女性を幸せにする義務があるでしょう。もしあなたと結婚すれば私は幸せになれるかもしれない。でも、人の不幸の上に幸せを築くことはできない」
 スイッチの切り替わった好子は語気を強くして話し始めた。
「でも向こうは俺と一緒になる気はないんだ……」
「何を言っているの、問題はあなたの気持ちでしょっ。そんなことより子どもには会いに行ったの?」
「いや、まず君の了解を取ってからと思って……」
「そんなこと、私にどうしろって言うの……」
「いやただ……、今は君が大事だから……」
 それを聞いて好子はうれしかったが、でも結婚はするべきでないと直感していた。
「彼女達への責任は、あなたが見守ることでしか果たせないわよ。それがあなたの責任よ。私には、彼女たちに残されたわずかな可能性を断ち切ることはできない。悔しいけど、それを聞いた以上、私はあなたとは結婚できない」

 好子は、玲子と異なり気の強い人であった。
 女医であったが、真一を心から愛していた。だから、結婚を機に勤めていた大学病院をやめ真一を支えることに専念しようと決意していた。
 真剣に人生と向き合い、進むべき道を見極めようとすることでは玲子と何も変わらなかったが、ただ、玲子が熟考の上、結論を出すのに対して、好子は直感を大事にした。
 その好子が、真一の話を聞いて結婚すべきでないと感じた以上、彼女の気持ちが動くことはなかった。


                 完
                   【波紋に揺れる影】より


小説のコメントコメント
この作品の著作権は、作者である 此道一歩 さんに帰属します。無断転載等を禁じます。

こんなに愛しているのに……
子供のいる人にはかなわない……
何もなければ、彼はごく普通に我が子を愛して、
彼の父は、ごく普通に目にいれても痛くない初孫を慈しんでいくことができる……
彼らのそんな思いを私が不自由にしてしまう…… 
できるわけがない、こんな結婚があって良いわけがない!


2020/05/19 04:34 此道一歩



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