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現代小説/歴史小説

『悪夢からの蘇生術』

金平糖一著



葉山は冷蔵庫に貼っていた日めくりカレンダーを破った。
13日の金曜日
破られた前日をゴミ箱へ捨てると、葉山は玄関のドアを開けた。

葉山こと、私の人生で最悪な出来事はいつも決まって13に付随して起こるものなのだ。
社内プレゼンで大失敗すした日は13日。
大学時代に単位を落とした科目の授業回数は13回。
入部して13日で辞めた部活の部員は13名。
13という数字は人生の節目で現れて、不幸の種を落としていく悪魔の数字だ。

今日は13日(!)である上に、金曜日だ。
13日の金曜日といえば、正体不明の殺人鬼:ジェイソンが現れて人々を襲う日が有名だが、
沖縄国際大学に米軍のヘリコプターが墜落した日も、
死者130人、負傷者300名以上のパリ同時多発テロが起こった日も、
13日の金曜日なんだ。

13日と金曜日の組み合わせは、「混ぜるな、危険!」だ。
悪夢のような出来事が起きて、私の人生を狂わせるのだ!


「ところで、矢井君」
髭を指で摘みながら、柏田は矢井に訊ねた。
「最近、部署異動してきた葉山君だっけ。えーと、その葉山君は上手くこなせているのかい?」
「んー、上手く・・・はできていないかもしれません。今年異動してきたばかりですし、そもそも彼は入社3年目ですから」
「・・・葉山君ね。不器用だけどけっこう見どころがあると思っているんだよ。だからさー、こう・・・上手い具合に手伝ってやって欲しいだけど」
「その点に関しては心配ありません。私の方で面倒を見てあります」
「あー、そうなの。じゃあ、心配ないかもね」

柏田は思案する。
そうは言っても、矢井君は当たり強そうだし、というか、実際に強いし。不安なんだよなー
葉山君は素質あるけど、大器晩成というかじっくり一人で考えた方が伸びるタイプだと思うけど・・・
色々言いたいけど、コンプラ部に訴えられたら、僕なんかクビ確定になりそうだし。
偶然で企画が成功しただけで、部長なんて荷が重いし。
というか、僕は今夜の酒が美味しければ、どうでもいいし。
あー、早く仕事終わらないかなー

「あの、部長」
矢井の目線が風神雷神のような鋭さで柏田に刺さる。
「えーと、何だい?」
「今夜の祝賀会の事ですが」
「あー、それね。どうかしたの?」
「バイクで通勤したので、お酒は飲まないということでお願いします」
「あー、はいはい。大丈夫だよ(2週間前には伝えたはずなんだけど(><))。飲みにケーション強制は禁止って決まりだから。でも、出席するの?」
「はい、出席させていただきます」
「だったら、わざわざ報告しなくていいよ。この間の企画が上手くいったから、その祝賀ってだけなのだから」


作戦成功。
矢井は、ニシシと笑いが出そうになるのをこらえる。
あの小心狸、やっぱりチョロい。
パソコン越しにニヤニヤが止まらない;モニターを突き抜けそうである。
ワタシの向かいの席は、葉山君。
今宵の私のターゲット。

こっそりと白状してしまえば、葉山君は矢井のお気に入り。
葉山君はいじめると、簡単に困るのが楽しい;矢井は部下の教育に満更でもない様子である。
そして、ワタシの身元聞き取り調査によれば、彼は下戸。
スーパーのアルコールコーナーに目も触れないタイプね。
日頃から面白い彼がお酒を飲めばどうなるのかしら?
きっと、もっと面白くなるに違いないわ。
アルコールブーストのかかった彼を、素面のワタシがきっちりこの目に焼き付けてやろうじゃないの。


再び葉山、見参である。現在、私には可及的速やかに回避したい予定がある。
それは祝賀会。
ちょうど2週間前に赤紙の如く通達された祝賀会への誘い。
あの矢井さんからもらってしまった。
私は抵抗の意志を見せたものの、断りきれなかった。
なぜなら、これ以上にない笑みを浮かべて、その血に染まりそうなメモを渡すのである。
そんなものを受け取らなくては、後生何が起こるか分からない。

私は足取りが重い。職場から2駅の会場は途方もなく遠く感じる。
何か行かなくてもよくなる理由はないだろうか。
やむを得ない欠席の理由は。
たとえば・・・
突然、腹痛がーー私の腹は頗る好調だった
ならば・・・
突然、祖母がーー私の祖母は健康そのものである
かくなる上は・・・
至急、別の行かなくてはいけないことができましたーー人口一億の日本で自我の砦に一人籠城した私に駆けつける場所などない
むむ・・・。
あれこれと思考を駆け巡る「提案(案)」はすべて唾棄したくなるようなつまらない理由だ。
もはや私には祝賀会に行く他ないのだろうか。

葉山の邪推は虚しく、祝賀会場まで来てしまった。
会場では馴染みつつある部署の方々が揃っていた。
柏田部長の顔はむっとした顔をして、何やら落ち着きのない様子である。
仕切りに両手を揉み直したり、腕を組んだり組まなかったりしている。
腕時計を取り外して、両手で弄んでいる。

柏田部長は突然、立ち上がって着席を求めて、談笑に花を咲かせていた同僚や上司が銘々に着座した。
料理は手際よく陳列されて、飲み物が配られた
柏田部長は開宴の言葉をそこそこに、乾杯の音頭をとった。
「乾杯!」の号令が宴席を伝播した。
いよいよ、祝賀会が始まったのだ。

私は1杯目こそビールであったものの、苦味と独特な香りに負けて2杯目からは麦茶だった。
それでもアルコールに縁のない私は、気分を無理やり高揚させられた。
料理は美味だったが、毎度取り合わせるのが面倒だった。
会場は時が経つにつれて、静寂を失っていった。
私は宇宙空間から地球を見つめるように大衆が狂乱するのを眺めていた。


ワタシは今日だけはお酒が飲めないことを残念に思わなかった。
待ちに待ったこのとき、作戦決行の日である。

最初は遠くから状況を観察してみることにした。
葉山君は周囲に合わせてビールで乾杯したものの、ゆっくりゆっくりジョッキを空けていた。
そして、ビールには懲りてしまったのか、2杯目以降は麦茶ばかり。
彼は禁酒法が解禁されたアメリカ人のように麦茶を飲んでいた。
その飲みっぷりが密かに会場の注目を集めているのに、当人は気がついていない。

だが、小心狸、もとい柏田部長が止めに入るようだ。
柏田部長は1人で麦茶を鯨飲する葉山君に近づいた。
柏田部長と葉山君が2、3言交わすと、柏田部長が急に猫背になった。
目をこらせば、部長は一升瓶を隠し持っていたらしく、明らかにイケないことである。
しかし、柏田部長はコソコソすることが得意である。それこそが小心狸たる所以だからだ。
葉山君は畏まりながらも、部長とこっそりと秘蔵の酒を酌み交わしていたのだった。

これは大スクープ!今日のワタシは運がいい。
透かさず、乱入することにした。

「柏田部長。こんばんは。今夜は一際お酒が美味しいですね」
「えっ、あー、確かに美味しいかもね」
「部長は何をお飲みになっているのかしら?」
「まー、その、あれだよ。しょっ、芋焼酎だ」
「あら、そうなんですか。随分と変わった芋焼酎ですことね」


これが会話の一方通行である。
矢井さんは人を困らせてその様子を楽しむのが趣味である。
そのくせ、部署からの評判は頗る良好で、上司・部下問わず、信頼を寄せられている。
たった今、狸が一匹捕獲されてしまいそうなのだ。

まだ数口しか飲んでいない酒であるが、相当に強い酒であることに間違いない。
部長のフォローをしようとした私は墓穴を掘って、てんてこ舞いである。

「ところで、葉山君」
「なんでしょう」
「そのお酒は何杯目になるの?」
「これは13杯目に決まってますよ。僕は既に12杯飲み干しているんですからね」
「ふーん。随分と楽しんでいるのね」
「いやー、楽しんじゃいませんよ。なんたって13杯目ですからね」
「13杯目だと、特別に何かするのかしら?」
「そりゃ、13というのは特別に凶悪ですからね」


葉山がトリスカイデァフォビア:13を忌み数とすることを喝破すると、急に腹痛が襲ってきた。
1言断って、トイレに向かうと、指相撲をしながら動き回る同僚がいた。
和式の便器に跨がって用を足せば、便器にはエンジンがかかり速やかに流された。
洗面所に向かうと、指相撲をしながら動き回る同僚がいた。
「葉山のばあちゃんが危篤だぞ、葉山のばあちゃんは危篤だぞー」
と絶叫しながら個室へと入っていた。
個室からは再びバイクの音が流れてきた。
葉山は急に用事を思い出して、今度はバイクに腰掛けて全速力で向かった。
地面がうねりを伴って、天空に走馬灯が映し出された。

激しい衝撃とともに、両頬にパチンと音がした。
ドタドタとした音が往来を告げて、甲高い電子音がリズムを刻んだ。
肩に春が逃げてきたが、胸や腹には秋が追いかけてきた
非ユークリッド幾何学に基づいて、交わらないはずの2線が交差してしまった。
肺胞を満たす呼気にアルコールは含まれていなかった


私はトイレではなく、自宅のベッドに戻されていた。
喉の渇きとやや強い頭痛がした。
テーブルに麦茶といくらかの食品が置かれ、メモが残されていた。
メモには矢井さんの筆跡で、
「柏田部長が介抱してくれました。あとで御礼すること」
と書かれていた。
口元に赤みがかった汚れが附いていた。


小説のコメントコメント
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2020/04/05 19:14 金平糖一



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