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現代小説/歴史小説

『蜘蛛の糸』

星烏著



ある日のことでございます。
お釈迦様は、極楽の蓮池の畔を所在なく、ぶらぶらと歩いておられました。
極楽というところは、暑くもなく、また寒くもなく、いつも美しい花が咲き乱れ、まことに静穏で長閑な、素晴らしい理想郷なのでございました。
ただ…ここには刺激というものがなく、何事もない退屈な日々が、まるで永遠の苦痛のように続いてゆくのでございました。
お釈迦様は、その退屈を紛らわすために、時々この池の畔に立って、遥か下界の地獄の有り様を眺めるのを、ひそかな楽しみにしておられました。
この池の真下は、ちょうど地獄の血の池に当たっており、そこには数知れぬ悪人どもが、呪いの声や悲痛な叫びを上げながら、浮いたり沈んだりして蠢いているのでした。
お釈迦様は、その浅ましい姿を眺めながら、ふと小さな悪戯を思いつきました。
この池には真っ白な蓮の花が、高貴な香りを放ちながら、艶やかに開いておりました。
いま、その花弁のひとつに極楽の蜘蛛が一匹、銀色に輝く糸を張っていたのです。
お釈迦様は、その糸をひとすじ御手に取り、遥か下界の地獄の底に向かって、スルスルと垂らしました。
キラキラと光る糸は、深い暗黒のなかを真っ直ぐに降りてゆき、とうとう悪人どもの頭上に達しました。
さてどうするかと、お釈迦様が眺めておられると、まず一人の男が糸に気づき、これに飛びついて上ろうとしました。
他の悪人どもは、これを見ると男を引きずり下ろし、我先にと上ろうとします。
殴り合いや掴み合いが始まり、凄惨な戦いが繰り広げられました。
血の池のなかで、みずからも血みどろになりながら、引っ掻き、噛みつき、眼を抉り…それはもう見ると絶えない無残な光景でした。
そのうちに、あまりにも多くの悪人どもが力任せに引っ張ったため、蜘蛛の糸は空中でプツンと切れてしまい、いままでにない絶望の叫びが、地獄の底全体から沸き上がりました。
そこまで、お釈迦様は目を輝かせながら眺めておられましたが、鈴を転がすような美しい声に、池の水面から御顔を上げました。
見ると花園の東屋で、娘達が手招きをしておりました。朝のお茶の時刻なのでございます。
お釈迦様は、もう地獄の悪人どものことなど、すっかり忘れ去り、娘達の方へ行ってしまわれました。
地獄の底からは、まだ絶望の叫びが切れ切れに聞こえております…


小説のコメントコメント
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2019/04/27 11:49 星烏



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