歴史小説・現代小説の投稿サイト・ShortSTORY・ジャンル別にページが分かれています。

歴史小説・現代小説 投稿 サイト/短編・掌編・長編。歴史小説・現代小説の投稿

現代小説/歴史小説

『八月某日、佳月』

木瓜著





PM0:00

(…………)
 温まったシーツとタオルケット、頭の下で潰れた枕の感触がした。どうやら、私は眠りから覚めたらしい。重たい瞼をこじ開けながら、枕元を手探りして端末を充電器から引き抜いた。薄目を開けて充電満タンの通知を確認して時刻を見る。
(ちょっと早いけど起きようかな……)
 寝返りを打ち、いくつかインストールしているゲームアプリを1つずつ起動してログインボーナスを受け取る。煌々とした画面を眺めるうちに目が冴えてくる。最後にSNSアプリ(正しくはSNSではないらしいが、よくわからないので私はSNSと認識している)で、寝ている間の分のタイムラインとネットニュースを流し読みする。我ながら不健康な、起き上がるまでの習慣である。
 閉めっぱなしにしてあるカーテンの方を見なくても強めの日差しが照っていることが分かるくらい、明らかな昼。正午。今日のアルバイトは遅番なのでだいぶ暇ができた。何か、胃に入れようと食料棚を見やる。並ぶのは500㎖のミネラルウォーター2本と白米1sのみ。
(冷蔵庫は……カラだったな。なにか買ってこよう)
 ゆっくり体を起こすとフェイスタオルをつかんでぼんやり洗面室へ向かった。


 寝間着のTシャツとジャージにサンダルをつっかけて、徒歩2分程のコンビニへ。空はだんだん曇ってきていて、太陽は見えない。雨が降りそうな匂いがした。ひんやりとした店内で、買い物カゴにカップラーメン、ペットボトル水、総菜パンの順に突っ込む。晩ご飯はアルバイト終わりに値引き品を狙うつもりだ。いそいそとセルフレジで会計を済ませる。人と話すのが苦手だから、店員含めできる限り人との接触は避けたい。セルフレジの普及は有難い。外は、本格的に雨の匂いがして、歩行者は減っていた。部屋に戻ると、動画サイトでゲーム実況のアーカイブを見ながら総菜パンを囓る。上手い下手関係なく、自分より長くプレイしている人を見ることは悪いことじゃあないと考えている。食事中のテレビ代わりでもあるけれど。
(後1時間寝ても間に合うな)
 どうにも頭がぼんやりしていて、早めに出る気になれない。食べかけのまま、パンの袋をテープで止めて座卓に放る。未だ覚醒しない頭を無理やり起こすことを諦め、アラームをセットして再び万年床に横たわった。



PM4:00

 バスに揺られ、数分置きに欠伸を垂らしながらアルバイトに向かう。やはり夜中のカップラーメンと明け方の就寝がよくなかっただろうか。
(まあ、最後に日付が変わる前に寝たのだっていつか分かんないくらい前だしな…) 
 朝のうちに起床したのも、先週が最後だった。一般的な始業時間の頃に1度目覚めて、昼までの二度寝。連続で寝ていられるのは平均4時間。睡眠不足が自分の不健康の1番の原因である自覚はあった。
 鏡で隈の染み付いた目元を睨みつつ、制服であるエプロンを身につけて、名札をつける。レジに入る際の連絡事項を確認して、一緒のシフトの先輩に挨拶する。私は今年入ったばかりの新入りだ。


 私は「空」を売るチェーン店でレジのアルバイトをしている。正確には天で使用済みの「空」を小分けに詰めたり加工したものを販売している。「空」は、そのまま部屋に満たしてそのときの時間や空気を感じたり、塗料やお守りとして使われる。雰囲気作りのために飲食店など店舗や、博物館が空間に満たしていたりする。少々高価なため大人の嗜好品として認識する人も少なくない。私はまだ若いほうだがが空の魅力にはまってしまい、数年前から少しずつ収集している。最近狙っているのは夏至の夕焼けだ。「空」に関われるアルバイトなんてそう多くないのだが、偶然友人が求人を発見してくれて今に至る。お陰で売れ残りの「空」を譲ってもらったり、たくさんの「空」に囲まれながら仕事ができて、良い思いをしている。
 客層のほとんどはマダムで、声をかけられたら世間話にも応じたりする。1年を通して、割とゆったりした職場だと思う。最近は10代後半の女の子が、8月の夕焼けを買い求めて多く来店するらしい。デートのムード作りに使うらしい。私には縁がなさ過ぎて、そんな使い方もあるのかと驚いたものだ。


客層はマダムと言ったが、様々なお客さんが来店する。例えば、ぼんやりレジに立っていると忙しそうな雰囲気を醸しながら、着古した感じのスーツを纏った男性が小走りで入店した。こちらの「いらっしゃいませ」に被せる勢いで「ゲッショク?ニッショク?ナントカリングだっけ?なんかそういうの無いの?」とまくし立てられる。私は店長を呼び出しながら「少々お待ちください」と声をかける。焦った様子で何度も時計を見る男性。
(めんどくさいお客さんかな……?)
ゲッショク、ニッショクはきっと月食と日食。違いも分からずに探しに来るのは、おつかいか店員に言えば思い通りに全部用意してくれると考えている人が多い印象だ。
(男性……おつかい……?プレゼント……なら…………)
「ダイヤモンドリングをお探しですか?」
「そう、それだ!一番新しいやつ、できるだけ早く頼むよ」
ここで店長が到着。「こちらのお客様、最新のダイヤモンドリングをお探しだそうです」と伝える。間もなく店長は最新の、昨年のダイヤモンドリングの小瓶を持ってきた。男性はホッとした様子で、急ぎ会計を済ませると店を去った。あれは部屋にばら撒くことでぼんやりとダイヤモンドリングが浮かび上がるタイプの瓶だった。希少な品であるダイヤモンドリングの輝きが満ちた部屋は、さぞロマンチックになるだろう。残念ながら、私のコレクションにはまだ無い。


貧弱な肉体に立ちっぱなしの仕事は中々キツい。閉店業務を終えて疲れ切った体で2度目のコンビニへ入店。半額の弁当を掴むと、疲労が甘味を欲するのか吸い寄せられるようにスイーツ売り場へ足を運んだ。手前の棚には新商品の札が付いたプリンパフェが並んでいる。天の川を練り込んであるらしい。甘いだろうか、酸っぱいだろうか、もしかしたら苦みがあるかもしれない。食品に混ぜる方法が確立したとかで、最近は空を練り込んだスイーツが流行りだ。
天の川を閉じ込めたそれが透明なプラスチックに覆われているのは、プラネタリウムのようで魅力的に見えた。
(コンビニのスイーツなら、ニセモノだろうし……うーん…………買うのはやめておこう)
 空を味わうときは金額に糸目をつけずに確実に良いものをいただこう、と私は自分を説得して後ろ髪を引かれつつその場を離れた。結局新たにカゴに入るものはなかった。



AM0:00

 端末の時刻表示は日付が変わったことを告げる。私は脳みそが溶け出すままに動画サイトでおすすめ表示される順番に眺める。住宅街が寝静まっているのは知っているし、ほんのり眠気もあるが、寝るには惜しい夜だった。
(違う。夜に寝るのが惜しいんだよな、私は)
夜空を眺められるとか、誰も起きていない時間ならそこそこ自由にできるとかいう理由で、私は夜に寝るのが苦手だ。ぎらぎらと主張の激しい太陽が苦手なので、眠るなら太陽が出ている昼間にして、夜行性になりたいくらいだ。
なんとなく布団から這い出してカーテンを開け、夜空を眺める。月がよく光っていて、青みがかった闇とマッチしている。
帰宅中よりも更に深まった夜は綺麗だった。綺麗で静かな夜を独り占めしている気分になれるから、夜に起きているのは好きだ。余計、眠らなくなる。
(後で安くなってたら今夜のも買おうかな)
それくらい良い夜空、良い夜だ。



AM4:00

 頭が痛くて働かない、目が霞む。肉体が限界を訴えている。月は白み始め、恐らく日が昇り始める頃だろう。部屋がぼんやり明るくなってきていた。
オススメ動画は脱線に脱線を重ねて、最初がわからないくらい関係ないジャンルばかり表示してる。
(……もう、そろそろ、寝たほうがいいんだろうな)
大きめの欠伸を一つ、かけ布団を簡単に直した。既に潰れた枕じゃ中々頭は落ち着かない。
「おやすみ」
 薄暗がりに呟いて、手探りで端末を充電器に繋ぐ。もう瞼は上がらないし、手元も覚束無い。
(もう夜は終わるから、きっと、悪い夢は見ないはず)

夜に早めに寝た日に限って悪夢を見がちなのも、就寝時間を遅らせる大きな原因だった。くだらないし恥ずかしくて他人には言えない理由だ。睡魔に抱きすくめられるように、引きずり込まれるように、数時間の抵抗が嘘のように、意識は沈んでいった。その夜最後の星が消灯した。

小説のコメントコメント
この作品の著作権は、作者である 木瓜 さんに帰属します。無断転載等を禁じます。

間違えて詩の方にも投稿してしまいました。読んでいただきありがとうございます。
2018/09/28 22:24 木瓜



このページの先頭に戻る ↑ 

はじめての方へ

小説投稿サイト・ShortSTORY

小説投稿サイトとは?

ミステリー小説・SF小説・ホラー小説の投稿。短編・掌編・長編オンライン小説/ネット小説投稿サイト『ShortSTORY』、ミステリー小説・SF小説・ホラー小説の投稿が無料。感想やコミュニティでの意見交換など

坂口安吾のすべて
チェンマイのレンタカー
レンタルバイク【チェンマイ】
チェンマイ・焼肉・日本式
チェンマイ・居酒屋・日本料理・和食・ガガガ咲か場