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現代小説/歴史小説

『明治35年、北の大地で自由を謳歌する』

ぷーでる著



明治三十五年―
岐阜に小さな町があった。
通りに、呉服屋が建っている。
そこに小林英俊という長男が住んでいた。

「そろそろ、お前も嫁をもらう年だ」
父親がキセルを吸いながら、呟く。

「俺に呉服屋を継げと?」
英俊は怪訝な顔をする。

「当たり前だ、それが長男の務めだろう」
「俺、絵描きになりたいんだ」

「お前に良い、見合い話がきているんだ」
「俺には、もう好きな人がいる」

「誰かね?」
「向かいの呉服屋の娘だよ」

英俊がそう言うと父親の顔が、急に怪しい雲の様に
暗くなった……次に、怒りの雷が落ちた。

「バカモーン!よりによって商売敵の娘を
               好きになる奴があるか!
        
 しかも、あの家は京都由来。
        京都の女は、気位が高くっていけねぇ……」

父親は、立ち上がってガミガミ怒った。

「加代さんは、教養があるし性格もそんなに悪くないよ」
「イカンイカン、おまえは、あの娘に騙されているんだ」

父親は、頭を抱えた。

「別に誰を好きになろうと関係ないだろ、オヤジ!」
「だが、あの娘だけは結婚相手としては許せん!」
「俺は、あきらめないぞ!」

父親は、我慢できなくなって、
       長男の頭に拳骨を振り下ろす。

「いてぇ!」
 英俊は、縁側から駆け下りる。

「こら!話は終わっていないぞ」

父親が言い終わる頃には、英俊は庭から姿を消し、
鹿威がコーンと風流に鳴り響いた。



 それから、何日かした。

 英俊は、ちょっとふてくされながら
 川の土手を歩いている。

 ふっと、顔をあげると、
    上品な着物を着た娘が目に入る。
       
 土手に腰かけ、川の流れを
     見つめていた。何だか悲しげだ。
 
 「加代さん?」
 「あら、やだ、英俊さんいつから見ていたの?」
 
 「今、さっき」
 「他には、誰も見てないわよね?」
 
 加代は、辺りを見回した。
 とりあえず、周りには誰もいない様だ。
 
 「ところで、何でそんな悲し気な顔をしているんだい?」
 「実は、お見合い結婚が決まったの」
 「そうなんですか……」

 英俊は、ガックリ肩を落とした。

 「仕方がないわ……」
 加代は、そう呟くと、すくっと土手から立ち上がった。

 「え?」
 
 加代は、何を思ったか川に向かって歩きだした。
 どんどん進みとうとう川の中へ足が入る―
 それでも、止まらない。

 「さよなら、英俊さん……」
 「ちょっと、待った〜!」
  
 英俊が、慌てて追いかけ自分も
 川に飛び込んで、加代の腕をつかんで止めた。

「何を、しているんだ?」
「好きでもない人と、結婚する位なら死んだ方がマシよ!」

 加代は、感極まった顔で叫ぶ。

「死ぬ勇気があるなら、俺についてこい」
 英俊も、思わず叫んでしまった。

「ええ?」
 加代は、驚く。

 「西洋では、好きな人同士で結婚するという。
               日本は、遅れているのだ。
                 
  家を継げとかしきたりがなんとやらなんて、
            文明開化の国がする事じゃないだろ?」
 
 英俊は、イラッとして言った。


「でも、家族に迷惑をかけるわ」

「何が迷惑なのさ?好きな事をして輝いた方が、
            よっぽど世の中の為になるじゃないか!

    好きでもない人と結婚するのが嫌で
                死ぬ方がよっぽど迷惑さ!」

 「そうね、そうよね。私、どうかしていたわ。
       あんな奴の為に死ぬなんて。でも、どうするの?」

「ああ、とりあえず、川からあがる事だな」
 二人は、川から一旦、あがって土手に戻る。

「ごめんなさい、濡れちゃったね」
「俺は、別にいいよ」

「ところで、どうすればいいの?」

「俺は、北海道へ行こうと思っている。
         オヤジの跡継ぎなんてごめんだ、
                一緒についてきてほしいんだ」

「呉服屋が嫌なの?」
「呉服屋自体は、嫌じゃない。ただ、人間関係が煩わしいんだよ」

 英俊がうんざりした顔をする。

「そうね……私……あなたについて行きたい」
 加代は、決心した様に言った。ところが、その時になって……

「お嬢様〜」
向こうから、九条家のお手伝いさんらしき人が駆け寄ってくる。

「大変、見つかったら怒られるわ!隠れて!」
 英俊は、加代に言われて、慌てて岩陰に隠れた。

「お嬢様、早く帰りましょう」
 お手伝いさんが、加代の前で息を切らしていた。

「ええ、そうね」
「もうすぐ祝言の準備が、ございますのよ」

お手伝いさんと、加代は、二人そろって去って行った。
 
二人が去ると、英俊は岩陰から出てきて―
 
 ―俺に、ついてくるんじゃなかったのか?―

空は、日が傾き始め夕暮れにさしかかっていた。
          英俊は、ぼうっとなりながらも家へと急ぐ。

数日後、加代は、輿入れ道中を伴って実家を離れた。
英俊は、その後を追う。

白無垢姿の加代は、馬に乗って、どんどん離れて行った。
追いかけて、どうしようというのか?
やがて、見失った……

英俊は、ガックリしながら家に戻り、
荷物をまとめるとそれを手にし、馬に乗って家を飛び出した。

フラフラして、たどり着いた場所は、大きな柿の木の下。

―子供の頃、よくここで、加代さんと遊んだな〜―

馬から、降りて昔を懐かしむ。
しばし、思い出に浸りウトウト眠った。

それから、どのくらい過ぎただろうか?
 
 「英俊さん、ねぇ、英俊さん、起きて」
 「ええ?」

 英俊は、目を覚まして驚いた。
    辺りはすっかり暗くなっている。
         月明りの下に見えたのは……

「か、加代さん?夢かな?」
「夢じゃないわよ」

「ほ、ほんと?」
「ほんとだって!」

加代が、英俊の頬をつねった。

「いてっ!……ほんとだ……」
「ね!」

 加代が、ニコッと微笑んだ。

「ところで、加代さん。一体、どうやって?」
 英俊は、ワケが分からずキョトンとしてしまう。

「祝言で、皆酔いつぶれているスキに抜け出して来ちゃった!」
 加代が、クスッと無邪気に笑う。

「すごい、恰好だな……まあ、それも似合うけど」
 
英俊の前に立つ、かよは、白無垢から袴姿になっていた。
   その後ろには馬がいる。どうやら、彼女も馬で来たらしい。

「荷物を持っているという事は、北海道へ行くんでしょ?」
加代は、英俊の傍らにある大きな荷物を見た。

「ああ、そうだ」
「私を置いていくつもり?」

「置いていけないから、ここにいたんだ」
「本当に?」

「当たり前だ」
「でも、さっきはひどく、驚いていたじゃない」

「まさか自力で、抜け出してくるとは思わなかったんだ」
「私だって、そんなにヤワじゃないんだから!」

「おお〜頼もしいね!」
英俊が、笑う。加代も顔が、明るくなった。

「さあ、連れて行って!」
「お、おう、まかしとけ!」

英俊と、かよは、それぞれ馬に乗ると、
           岐阜の町を抜け出して行った。

嫁ぎ先の家の者達は、花嫁の姿が
消えている事に気付いたのは翌朝の事である。

「わしの嫁は、何処行ったー?」

新郎が、二日酔いの頭でフラフラしながら間抜け面で、
消えた花嫁を探し回っていた。

宴会状態だった部屋は散らかっていたので、
足元に転がっていた酒瓶につまずいて、盛大にコケてしまった。
 
花嫁が消えたという事で、大騒ぎになった。

実家の九条家にも、すぐにその事が伝えられた。
帰っていないという事で、真っ先に向かいの呉服屋、
小林家にも疑いが向けられる。
 

「申し訳ございません、私の息子も
            実は、行方不明でして……」
 
 英俊の父親が、頭を下げる。
 
「わしの娘を、勝手に連れ出したに違いない!
              何かあったら招致しないぞ!」
 
加代の父親が激怒した。怒りをこらえきれず、
            英俊の父親の襟を掴んで睨み付けた。
 
「こちらが穏便に
      済ませようとしているのに、
             ケンカ腰ですか?

 あなたの、躾がなっていないから
     私の息子をたぶらかして出て行ったんでしょう!
           さすが、京都人だけの事はありますね!」

英俊の父親も、負けじと加代の、父親の襟を掴んだ。
 
「うわぁああああ!」

 九条呉服屋と小林呉服屋の間に挟まれた通りで、
                 父親同士で喧嘩が始まった。

 通行人達が、驚いて逃げ惑う。
 
 「あなた、やめて!」
 「そうよ、ここで喧嘩しても何もなりやしない!」
 
 今度は、母親同士が出てきて仲裁しはじめるのだった。
 


 加代と、英俊は、馬に乗って駅まで
          やってくると汽車に乗った。

 何度も乗り継いで、
      ようやく青森の駅に着く。
 
 「やっと、ここまで来たな」
 「ええ、そうね」
 
 二人は、長旅なのに、疲れの顔はない。
 夢と希望に満ち溢れているから。
 好きなもの同士でいれば、苦しさも感じない。
 
 「清田、あともう少しよ」
 
 加代の胸に、赤ん坊が抱かれていた。
 旅の途中で生まれた子供である。
 
 赤ん坊を連れた、二人は津軽港へ向かった。
 ここから、青函連絡に乗るのだ。
 
「お客様、足元にお気を付けてご乗船ください」
 船員達が、タラップまで乗船客達を導いていく。

 乗船する連絡船の煙突の二本からは
        モクモクと黒い煙が上がっている。
           辺りには、石炭の匂いが立ち込めていた。
 
 乗船が終わると、出港ドラが鳴り響いた。
         次に汽笛が鳴る。船は港をゆっくりと離れた。
 
「何か不安だわ」
 加代が、思わず声を漏らす。
 
「不安の向こうに、夢と希望があるじゃないか」
 英俊が、微笑んで言った。
 
「そうね、あんな所にいたら、死んでいるのと変わらない」
 加代が納得する。
 
「そうさ、これからは楽しい事が待っているぞ!」
 
 青函連絡船は、津軽海峡を越えて進んだ。
 やがて函館港に到着した。
 
「わー、着いた〜!」
 加代が、赤ん坊を抱いたままはしゃぐ。
 
 英俊は、重たい荷物を
 運ばされているが、苦笑いしながら下船した。

 函館に着いた三人は、しばし滞在したのち
 馬車に乗って更に奥へと進んだ。

 道南のある村に落ち着き、そこで暮らす事にした。
 
 「旅館を始めようと思う」
 「いいわね」
 
 英俊と加代は、お互い意気投合して旅館経営を始めた。
      周辺は林業の出稼ぎで泊まりに来る人がいたからだ。
 

 ところが、しばらくして……
 
 「あなた、もうお金がありません」
 「そうか……でも、家の裏にある沢は、砂金で有名だったなぁ」
 
 英俊は、思い出した様に言う。
 
 「あなた、砂金を掘り当てるつもり?」
 
 「昔、砂金が獲れる沢で、アイヌと和人で
            激しい争いがあったって聞いたんだよ。

           もしかしたら、まだ少し
              残っているんじゃないのかぁ?」
 
 英俊が、ちょっとした望みを賭ける。

「いや、それはちょっと……」
 加代は、流石に考えてしまった。

「やってみなくては、分からないではないか!」

英俊は、砂金獲りの道具を揃えると、
早速、家の近くにある沢で砂金探しを始めた。
 
初日は、何も見つからなかった。
でも、沢の水の反射が黄金色に輝いて見える。

「あの反射が、全部砂金だったら苦労しないのにな」
英俊は、苦悩したが、何日も続けた。

そんなある日……
いつもの様に、沢に入っていくと……何かが近づいてきた。

「あ、こんにちは、どうも〜?」
英俊は、頭をさげたが相手の反応がない。

恐る恐る顔をあげると……
 
「で、でた〜!」
英俊が、思わず叫んだ。

砂金が出たのではない、目の前に熊が出た。
慌てて、沢から逃げ出し、そのまま家へ猛直行した。

幸い、熊は追いかけては来なかった。

「いやぁ〜危なかったですねぇ、小林さん」と近所の人。
すっかり、近所ではその話で有名になってしまった。

「熊が追いかけて来なくて幸いだったよ」
 英俊が、苦笑い。

「まだ、春先で冬眠から覚めたばっかりで
             寝ぼけていたんでしょう」
 
 近所のおじさんが笑った。

「裏の沢か、わしが熊を狩ってこよう。しばらく沢に近付くなよ」
 隣近所に住む、熊猟師が聞きつけると去って行った。

家に戻った、英俊は加代に困った顔で話す。
「当分の間は、砂金探しは無理そうだ」

「無理も何も、最初から無いのよ」
 加代が呆れ顔。

「それで考えたんだが、俺は実家に
       戻ってお金を頼んでみようと思う」
 
 英俊は、苦し紛れに言う。

「ええ?」
 加代が驚く。

「大丈夫、何とかなるって!」
 英俊は、自信に満ちた顔で答えた。

「仕方ないわね、気を付けてね」
 加代は、不安ながら見送った。

岐阜の町にある小林呉服屋―

―あれから、五年……
    日露戦争も終わって、しばらく経つが、
     あのバカ息子は一体何処で何をしているのだろう?―

英俊の父は、時々思い出しては、部屋でため息を付くのだった。

「ただいま〜」
「え?」

裏玄関で、聞き覚えの声がして行ってみると、紛れもなく
長男英俊が、立っていた。

「お父さん、長らく……」
「お、おまえ!」

「良かった、お元気そうですね」
「何言ってんだ、このバカァ!」

こうして、父息子は、無事再会を果たしたのであった。

二人は、部屋へ行き、しばし話をする。
     母親も現れ、息子の無事を知って安堵した。

「ほら、俺の子供だよ」
 英俊が、子供の写真を見せた。

「あらまあ、かわいいね」
英俊の母親が初孫に目を細めた。

「ところで、お父さん、お金をください」
英俊は、本題に入る。何としても貰わないといけないのだ。

「仕方ない、かわいい孫の為だ、持っていけ」

 父親が、あっさり承諾した。
 英俊は、家族と仲直りし、お金をもらって
               岐阜の実家を離れた。

北海道へ戻ると再び、加代と一緒に旅館経営を再開した。

小説のコメントコメント
この作品の著作権は、作者である ぷーでる さんに帰属します。無断転載等を禁じます。


2018/06/26 00:14 ぷーでる



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