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現代小説/歴史小説

『みかん』

とみた伊那著



                 
2024年、国子は65歳になった。シングルマザーのため、ずっと短時間パートの掛けもちをしていた。そのため40年間国民年金だけに加入していた。

65歳になったのをきっかけに、そのパートの契約も終了した。身体も辛いのでそろそろ仕事を辞めたいと思っている。
「国民年金だけじゃとても生活できないわ」
40年間全て国民年金に加入していた場合、65歳での給付金額は年78万100円(平成27年度)、1か月65008円になる。

友人の厚子はずっと正社員で働いていたので全て厚生年金に加入していたため、61歳から夫婦二人で月23万円の年金をもらっている。年に一度は海外旅行に行ってゆとりのある生活を送っている。

他の国民年金の人は今までどうやってこの少ない年金で生活していたのだろう。国子は知り合いで国民年金だけの先輩に聞いてみた。
「何言ってるの。私だって国民年金だけよ。大した金額はもらっていないけど、それでもこうやって何とかやりくりしてるんだから」
タバコ屋のおばさんに言われた。そのおばさんは75歳。歩くと少しよろよろするが、それでもまだ働いている。しかしそのおばさんは自営業である。国子は65歳になると同時に今の派遣の契約が終わった。生活のために次の仕事を探しているが、年齢的になかなか次の仕事がみつからないでいる。
国民皆保険・皆年金が実現した1961年には第一次産業が3分の1、農業と自営業が国民年金の主な加入者だったため、高齢になっても仕事があり年金の給付金額が少なくても収入を得ることができていた。2010年には第一次産業に人口が全体の4パーセント。2016年には労働者の4割が非正規で、国民年金の主な加入者は農業・自営業から非正規労働者に移っていった。その非正規の国民年金加入者が年金を受け取る時期になってきている。。

国子は老後のことについて自分なりに考えて個人年金に加入していた。ところが最近、その生命保険会社から説明を受けた。
「え、では今まで掛けていた分の年金はもらえないのですか? 」
「お支払できないという訳ではありません。ただ最初の契約どおりのお支払いの保障は難しいかもしれないという話です。東京オリンピックが終わってから急激に景気が悪くなり、株価が下がっています、アベノミクス時代に未曾有に発行していた国債の支払いも危ないのではないかという噂もあります。そうなるとこの保険会社自体、危なくなる可能性もあります」
「でも私は国債も株も買っていません。ただコツコツと年金を積み立てていただけです。なぜ、どんな影響があるのですか? 」
「その積み立てていただいたお金で、会社が株や国債を買っていたのです。これからどういう影響があるか、作者が経済の素人なので分かりません。ただ今の不景気の状態では契約時にお約束した金額の支払いは保障できないかもしれません」

「生活保護を受けたら? 役所から毎月お金がもらえるから安心よ」
隣の家の保子さんが話しかけた。保子さんは自分より若い60歳。でも一人暮らしで腰が痛くて働けないということで、20年前から生活保護を受けている。
東京都の場合、高齢者単身世帯では生活保護費は80140円。これに住宅扶助費53700円(上限額)が付き、合計一か月133840円(平成25年8月)となる。

心苦しいけれど、国子も生活保護をもらうことにした。福祉事務所の窓口に行ってみた。
「生活保護の申請ですか。以前は国子さんくらいの状況でお出しできたのですが、今は生活保護の申請を出す人が多すぎて、余程の場合でないと新たに受けることはできませんね。今は国民全体の3分の1が非正規雇用なので、厚生年金に一度も入れずに国民年金だけという理由では無理です。そうなったら高齢者の3分の1が生活保護を受けることになってしまいます。それでは国家はやっていかれません。
国子さん、あなたは田舎に家がありますね。それが財産ですから、先ずそれを売って処分してからここに来てください。それから息子さんが一人いますね。息子さんから少し出してもらえないんですか」
「青森の家は両親が死んだ時、もうずっと前から売りに出しています。でもあまりに田舎の土地なので、誰も買う人はいません。毎年固定資産税がかかるばかりです。そして家も田畑も雑草だらけで、近所の人から草刈りをするように何度も言われています。でも青森に行く交通費がありません。」
「じゃあ、あなたが青森の家に住んだらどうですか。家賃がかかりませんよ」
「青森には仕事がありません。それに卵ひとつ買うにも車が無いとどこにも行かれません。その車を買うお金もないのです」
「それはこちらの部署の仕事ではありません。青森の役所にでも行って相談してみてください。はい、次の人」

国子は息子に迷惑をかけたくないと思いつつ、息子にいくらかでも仕送りができないか聞いてみることにした。息子もまた正社員になれず、自動車工場の期間労働者として働き、会社の社員寮に住んでいる。息子は工場から帰ったばかりで、テレビのニュースを見ながら寝転んでいた。
「母さん、何言ってるんだ。オレだって学歴が無いから非正規の仕事しか無いんだ。その少ない給料の中から、国民年金と国民健康保険を払っている。その保険料も、今ではどんどん値上がりしていっている。1980年代は7.4人の現役世代で1人の65歳以上の高齢者を支えていたけれど、2000年には3.9人で1人、2050年では1.5人で1人になるんだ。その給料の中から山ほど引かれている分で老人は何とかやっていってくれよ。とにかく高齢化社会が悪いんだ」

その頃、総理官邸ではカベ総理とツガ官房長官が渋い顔をしていた。
「2020年のオリンピック以降、株価は下がる一方です。GPIFで国内株25パーセント、外国株25パーセントを買っている今の状況では、年金の積立金は減る一方です。とても今の数の高齢者に約束した額の年金の支払いはできません。かと言って、国民年金の給付金額をこれ以上下げたら生活保護者が増えるばかりです。やはり厚生年金で金額が多い人の年金を減らすしか無いでしょうか」
「理屈ではそうだが、高い厚生年金をもらっている富裕者層はわが自由党の支持者だ。その支持者の給付金額を下げたら選挙に勝てない。しかし国民年金の給付金額をこれ以上下げれば、今や野党第一党となっている共産党の議席がますます増えてしまう。まさか日本を共産党の国にする訳にもいかないだろう
とりあえず、生活保護の受給基準をもっと厳しくすること。それから株の暴落でGPIFの資産が減っていることはできるだけ公表しないように。少子高齢化のニュースを連日のように流させるんだ。悪いのは長生きしている年寄だと。NHテレビの米井会長にまた電話をしておこう、」

生活費が増える見込みが無いまま、国子は駅から離れたリサイクルショップに行った。家にあった鍋を全部持ってきてここで買ってもらう。代わりに古いフライパンを一つ買って、その差額を受け取った。最近は格差が広がったためか、こういうリサイクルのショップが増えてきたので助かる。安ければいいという人が増えたため、リサイクルで引き取ってもらえるものが増えてきたのだ。フライパン一つだといろいろと不便だが、息子が出て行って一人暮らしになった今、この小さなフライパン一つあれば料理はできる。この差額で今月は何とかなりそうだ。ここの店はいろいろなものを引き取ってくれるので本当に便利だ。駅前にもスーパーがあるけれど、あそこは桁外れに高い。厚子に誘われて一度言ったが、あそこは全てが高くて買えない。私には関係ない。あそこは金持ち専門のスーパーだから、もう行かない」

そしてリサイクルショップの隣のディスカウントスーパーの入り口でふと目にとまった。
そこには小さくて少し傷みかかったみかんが売っていた。

みかんだ。もう何年食べていないのだろう。10年前はお正月には食べていたのに。なつかしい。食べたい。でもお金が無い。ガマンしなきゃ。
国子が立ち去ろうとした時、保子が通りかった。
「あ、随分しおれたみかんだこと。まっいいか」
保子はそのみかんを3つばかりカゴに入れた。

それを見て国子は急にムラムラと怒りがこみ上げた。
私はこれだけ頑張って朝から晩まで働き続けてきたのに、みかんの一つも買えない。なのになぜ保子は生活保護で何もしないで遊んでいて、そうやすやすとみかんを買えてしまうのか。許せない。
国子は無意識のうちに持っていたフライパンを振り上げ、保子に振り下ろした。
通りかかった厚子があわてて止めに入ったが、間に合わなかった。厚子の買い物袋からメロンが道路に落ちて壊れた。

翌日の新聞は国子のことが大きく書かれていた。
「犯行の動機・生活保護でみかんを買っていたのが許せなかった」
「生活保護以下の国民年金」
「みかん殺人事件」


官邸ではツガ官房長官がカベ総理に困ったように話しかけた。
「国民はみかん一つも買えないのかと世論が騒いでいます。これでは次の選挙が危ないです」
するとカベ総理は不敵に笑った。
「今度の選挙の争点が見つかったよ。生活保護費を減らすと。
国民の目線を富裕層から生活保護者に変えさせればいいんだ。悪いのは働かないで生活保護をもらっているヤツらだと。共産党は、まさか生活保護費を減らせとは公約に出せないだろ
う。これで次の選挙は自由党の圧勝に違いない」


小説のコメントコメント
この作品の著作権は、作者である とみた伊那 さんに帰属します。無断転載等を禁じます。

使い方の練習として、短編を載せてみました。慣れてきたら長編も投稿したいです。
2018/01/06 13:58 とみた伊那



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