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現代小説/歴史小説

『A 温かい、嘘。 〜雨の中〜』

むかい 巳花著



 彼はあたしより2つ年下で、名前を輪島怜士といった。デザイン関係の会社で営業をしている。出逢った当初は新入社員だったから、今年で2年目になる。
「梅雨とか、マジかったりぃわ・・・」
 寝室に置かれたセミダブルベッドに寝転がった彼が、ふと漏らす。そのベッドは、左全面をあの大型スクリーンの様な窓にぴったりとくっ付けて置かれてあった。
「あたしは、好きよ。梅雨も。そのお陰で、怜士と知り合えたワケだし」
 ベッドを背もたれにして雑誌をめくっていたあたしはそこから視線を外し、首を左に捻り彼を見てからそう答えた。
「六月って、祝日もないしな」
「有休は?もう取れるんでしょ?2年目だし」
「・・・こっち、来いよ」
 あたしと視線を合わせた彼は窓側に寄って、あたしの為のスペースを作った。あたしは軽く微笑んで、雑誌をテーブルに無造作に置くと、彼に言われるままそこに横たわった。彼は、枕元のリモコンを取り上げ、照明を落とした。
 リビングのテーブルに置かれた彼のケータイが、22:07を表示していた。
 下ろしてあるロールスクリーンを、彼は寝転んだまま器用に上げた。すると大きな長方形のガラスの向こうには、赤や黄色の滲んだ光の珠が美しく重なり合って見えた。
「雨の日の夜景も、すごく綺麗」
 あたしは起き上がり、上向きで横たわる彼の胸に上半身を預け、ぼんやりとそれを眺めた。彼は上向きのまま、視線を外に置いていた。
 どれくらいの時間が流れただろうか。気が付くと、彼はあたしを見ていた。
「何?」
 くすぐったくなって、あたしは照れ笑いをしながら、訊いた。
「俺、贅沢とか全然興味ねぇんだけど。部屋だけは。・・・部屋だけはどうしても、贅沢したかったんだ」
「うん、知ってる」
「この部屋を花椰子が気に入ってくれて、よかった」
「女なら、みんな気に入るでしょ?」
 微笑むあたしに、彼は続けた。
「大学ん時の女は、ここを嫌がってた」
「え?何で?」
「高所恐怖症とかで。このスクリーンを開ける事はなかったなぁ・・・あいつがこの部屋にいる時は」
 確かに、壁のほとんどがガラス張りになっているし最上階なので、恐怖を感じても不思議ではない。
「けど、勿体ない・・・この景色を愉しむ事ができなかったなんて」
「ま、色んな事が合わなかったんだろうな・・・喧嘩もよくしたし」
 あたしは、このタイミングで彼から離れ、身体を横たえた。と同時に、彼もあたしの方に身体の向きを変えた。
「花椰子ぉ」
「ん?」
 彼の唇が近づいてきた。
 その時、ふと、窓の外に何かがへばり付いているのが、見えた。丁度彼の頭の後ろ辺りだった。
「待って」
「どした?」
「何かいる」
「何?」
「窓」
 あたしは、左手でそれを指差した。
 彼は身体をくねらせ、あたしの指差す方を見やった。
「ん?・・・ヤモリか?」
「こんな高い場所まで、来る?」
「わかんね・・・けど、色がヤモリっぽくね?」
 その時、ソレが急にくるりと下方向に向きを変えた。驚いた。そして、雨粒をその小さな体に受けながら、それはそのまま動かなくなった。
「見られてる」
 あたしは、けらけらと笑った。
「なんだよ〜邪魔すんなよな〜」
 怜士はあたしの方に向き直ると、そのままベッドにうつ伏せた。
 その時、彼のケータイがテーブルの上で不意に振え始めた。けれど、彼は微動だにしなかった。
「鳴ってるよ?」
「めんどくせぇ」
 うつ伏せたまま、顔だけあたしに向けて彼は答えた。振動は暫く続いたが、そのうち止んだ。けれど、止んだと思ったらすぐにまた震え始めた。
「緊急なんじゃないの?」
「ない」
 それでも気になったあたしは身体を起こして手を伸ばしそれを取ると、彼の顔に近付けた。
「何なんだよ〜ったく・・・誰だよ!」
 彼は首をもたげ画面をチラッと見た。あたしもその時初めて画面を覗いた。
 非通知、という文字が黒い背景に白文字で浮かび上がっていた。
「花椰子かよ」
 今度は、彼がけたけたと笑い始めた。
「どういう意味?」
 あたしはケータイを持っていないので、外にいる時は公衆電話から掛ける。その時にも、この文字が出るのだと彼は説明した。
「あたしからかもよ?出てみてよ」
 それを聞いたあたしが冗談半分で言ったら、彼はニヤニヤと笑いながら起き上がり、ケータイを取ると電話に出た。
「もしもーし」
 言いながら、あたしを横目で見る。顔は笑ったままだった。が、次の瞬間、その表情を曇らせたのが判った。
「・・・今頃・・・何だよ」
 不穏な空気が、部屋中に立ち込めた。
 視線のやり場に困って窓を見たら、きらきらと光る歪んだ珠を映したガラスの向こう側に居る物体が目に入った。ソレは、同じ場所に位置したままジッとしていた。
「用がないなら、切るわ」
 掛けて欲しくない人からの電話だと、その声のトーンから読み取れた。誰なんだろう・・・。
 程なくして、彼は電話を切った。
「テーブルに戻しといて。鳴ってももう無視でいいから」
「誰なの?」
「この部屋を嫌がってた、女」
「あぁ・・・」
 絶妙なタイミングで掛けてきたな、と、不本意ながらも感心してしまった。
「何て?」
「くだらねぇ話」
「何?くだらない話って」
「縒り、戻したいとか言ってきた」
「今更?」
「男と別れたかなんかで、淋しくなったんじゃねぇの?」
「だからって、怜士に連絡・・・」
 言い終わるか終わらないかのタイミングで、彼の唇があたしの言葉を遮断する。そして、右手をあたしの髪の毛の隙間に滑り込ませた。瞬間、あたしは彼に渡されたケータイをベッドサイドに落としてしまった。

 彼の寝息で目が醒めた。
 彼のあどけない寝顔をみつめていると、自然と頬が緩む。あたしは彼の長い前髪に触れた。
「・・・ん〜・・・」
 彼が起きそうになったので、慌てて手を引っ込めた。
 その彼の背後にある濡れたガラスの向こう側を彩る光の数は、激減していた。その光の数から推測すると、今は多分午前2時前後だろう。すっかり減ってしまった光の珠は、油絵具で描かれたドロップに見えた。
 ふと気になってそのキャンバスの右上端を見やると、ソレが一瞬、微かに動いた気がした。
 あたしは布団を肩まで引き上げた。


小説のコメントコメント
この作品の著作権は、作者である むかい 巳花 さんに帰属します。無断転載等を禁じます。

理想のシーンで埋め尽くしました(笑)

お愉しみ頂ければ、幸いです。
2017/10/13 00:46 むかい 巳花



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