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現代小説/歴史小説

『61話: 親切な素振りをされたい』

比呂よし著



 女が知らずに陥っている大都会での孤独を、分かり易く分析してやった:

 バレエ練習場の先生や、そこのクラスの生徒達も含めて、人の数だけは身の周りに沢山居た。けれども、女へ親身に気を掛けてくれる人は居なかった。仕事も派遣中心だったから、身分が違う為に、派遣先の会社の社員らと親しむ機会が少ないのも背景にある。同僚と飲みに行ったり、一緒に群れて食事をする機会も無い。本人の性格にも拠るが、恋以前の問題であった。

 家族と同居しておれば、状況はまた違ったろう。大都会に一人棲む寂しさに負けまいと、女はなおさら強く頑張ってバレエにのめり込み、それが益々人から遠ざけ、気が付くと何時の間にか独りぼっちになっていた。

 バレエを踊った後で貰う観客の拍手だけでは、埋め切れないものがある。相手は恋人でなくてもいいのだ。貰った拍手を「よかったねえ」と、手を取り合って喜んで呉れたり、共に食事をする人が必要なのだ。言葉だけでも「好意」を示されたいし、「愛もどき」でもいいから「親切な素振り」をされたい。
 諭すように私に指摘されて、初めて女は心から「寂しい」と思った。

 話が変わるが、作家の坂口安吾は孤独について、こう書いている:「人は最も激しい孤独感に襲われたとき、最も好色になることを(自分は)知った」と。
 孤独に陥る時、人の心はほの暗く寂しく冷えびえと寒いに違いない。心の寒さを癒す為に、「暖かいもの」に触れたくなるのではあるまいか。それが温もりのある「人の肌」なのだろう。

 孤独な場合に求める人肌は、愛とか好きという積極的で、時には攻撃的なものではなく、何かに「縋って包み込まれたいもの」かも知れない。孤独感がもっと強い時には、「肌に触れる」程度ではぬくもりがなお足りず、中へ埋もれてしまう程の暖かみを求めて、人を抱きしめたく(又は、抱き締められたく)なるのだろう。

 それを好色と安吾は表現したが、深い孤独に陥る時、人は慰めの本当の意味を知るに違いない。

 又安吾は、「(そもそも)人間の孤独感というものが、人間を嫌うことから来ずに、人間を愛することから由来しているようだ」とも述べている。これを想うと、人肌の接触無しに人は生きられない存在かもしれない。

 女は経済支援を目的にパトロンを求めた。初めの内は純粋にそれだけだった。が、三十の歳に近づくにつれ、身の回りの状況は徐々に変わった。学生時代の友達は何時の間にか去り、また結婚して離れて行った。女は大都会で次第に独りぼっちになった。
 そんな中で、はっきりした自覚は無かったが、パトロンの中に孤独を癒してくれる一種愛情みたいなものも、期待するようになった。

 愛情が元々そんな処にある筈は無いのに、漁るように女はそれを求めるようになった。パトロンを次々に替えたが、結果はむなしい。そんな時に、愛、いや「愛もどき」を売ってくれる年寄りのセールスマンに出逢ったのだ。 どこか縋るような気持ちで女はそこへ落ち込んでしまった。

 「お父さん」への恋愛感情について、女自身も薄々怪訝に思っていた。だから、指摘されて、身にしむ処があった。不安定な女の精神状態を考えて、私は約束してやった:
「今後も今までのように、親しい友達として付き合って行こうよ。僕は決して隠れたりしないし、何処へも逃げては行かないから。心配せず、安心しておいで」

 私は自分の弱みを女の手に握らせて、逃げ隠れしない証しとした:会社の名前と身分を初めて明かした。これにはちょっとした勇気が要ったが、私を失うのではないかと女が怯え、不安に感じているのが判ったから、安心させるにはこれ以外の方法が無かった。女は男の誠意を理解し、安心したのである。

 続けて次の日曜日にも逢う機会を作り、私は辛抱強く話をし、メールでも諭した。配偶者がいる67と結婚するわけには行かないーーー、誰でも分かる事だ。女も馬鹿ではなかったから、自分が「恋の相手を間違えている」のを、頭では正しく理解した。

 とは言っても、人を好きになってしまった感情を、簡単に片付けられる訳ではない。それでも、私がうるさがったり逃げ隠れしないのが判って、女が安堵したのは間違いなかった。

 私はそれまでよりもっとメールの返事を頻繁に送信し、文章も丁寧に書いてやった。レストランやホテルでも、女のおしゃべりへ一層長い時間相槌を打った。女を落ち着かせるのに、これが利き目があった。私を失う事が無いと判れば、何時でも繋がって居れるわけで、一人ぼっちに成る事はないし、そうなれば不安になったり悩む必要がないからだ。

 女は一層の信頼を、私に置いた。感情の処理に女はそれから暫く悩んだようだったが、次第に落ち着きを取り戻して行った。

(つづく 明日夜)


小説のコメントコメント
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2016/08/01 21:22 比呂よし



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