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現代小説/歴史小説

『59話: 愛そっくりの愛もどき』

比呂よし著



 女は過去に、一度も男から本当の愛情を注がれた事がなかったのかも知れない。学生時代以来男性経験が豊かなように見えながら、本当の恋人は存在しなかったのだ。

 エラそうな口をききながら、若い男というのは案外自分の内実に自信が無いもので、綺麗過ぎる女を敬遠する。社会へ出てからも近寄る男が居らず、女は道具としてのセックス以外を知らなかったのだろう。美人の不幸と言える。

 かといって、ロケット男みたいに女に対して自信が過剰となると、これまた問題だ。パトロンとして、セックス最優先でビジネスライクな関係に割り切っているから、心に響く情愛のある会話が、男女の間にあろう筈は無い。増してや、女のおしゃべりに耳を傾けるなんて、真っ平ごめん。

 「性欲ありき」であって、「相手ありき」ではない。こうして、若い女の心から人間らしい潤いが次第に失われて、心が乾いてしまう。気が付かない内に、男を愛し男から愛される機会を、バレエが奪っていたと言える。

 こっちも、浮気の範囲を一歩も出てはいない。だから女に対して冷蔵庫みたいに冷静であったのは、他のパトロン達と同じ。ただ、他と違っていたのは、年寄りというハンデのあるが為に、女に対して控えめな気持があった為かと思う。

 性欲は否定しないが、「相手ありき」だった。他のパトロン達のように、「(バレエの)資金を出してやっている」という上からの目線は無く、むしろ逆で女へ敬意さえ払っていたから、根本が違った。

 かってセールスマンとして鳴らした「人たらしの術」を、私が活用したのは確かだ: 正直でないのに、正直で誠実な人間のように振舞う術(すべ)を知っていたし、見えない愛を見える形にして見せる術(すべ)も知っていた。生あくびを噛み殺して、隅々まで話を聞くのも上手。そこには、愛しているように見せる「愛もどき」が有った。

 だが、「愛もどき」だとしても、何処から眺めても「愛そのもの」に見えるように、私は完璧に遂行した。例えば、女へ洋菓子を手土産にする時は、決して甘いだけで選ばず、回り道をしても、一流の味の店まで寄って買い求めた。そんな事に、私は手を抜かない流儀だと言えば判り良いか。

 女のバレエを見に行くときには、それが大した発表会でないとしても、バラの四・五本でお茶を濁さず、他の出演者全員が貰うであろう花束の中で、「最大のもの」となるように奮発した。女本人も驚いたが、仲間内から羨望の目を向けられたから、彼女が大いに面目を施したのは言うまでもない。大した金を使わずに、私は最大の効果を上げる手法を使った。

 これは、女からセックスを得るための手練手管だと非難されても、正にその通りなのだが、目的の為に女を「楽しませ・賛美する」やり方は、誰にも負けなかった。全てがセールス流儀で、計算づくだった。この「愛もどきとウソつきの天才」を、狡いと言うだろうかーーー? 

 もし、それを言うなら、計算を含まない男女の愛なんて、世に一体どれほどあるのか? 女だって、「将来出世するかどうか、自分と子供が路頭に迷う心配は無いか」と、A男とB男を天秤に掛ける。

 造りものの「愛もどき」とそうでないのと、明確に区別出来るペアがどれほどいようか? 多分ーーー、私は胸を張っても良い部類に入るのだろう。

(つづく 明日夜)


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2016/07/30 21:17 比呂よし



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