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ファンタジー/童話

『5〜18シンラ』

ぷーでる著



    5『シンラが壁を突っ走る』

 三峰山にある、北奥…魂の旅館―

 女仙人、フチと物の怪のシンラで
 大乱闘が始まった。我神屋敷は、癒しの場から戦場へ―

 「ボケたか?ばーさん!僕はシンラだ!ネズミ男って呼ぶな!」
  シンラが髪を、なびかせ逃走し、叫ぶ。

 「ワシは、ばぁーさんではない!フチ様と呼べ!」
 フチがシンラを追いかけて、怒鳴る

 二人が、走りまわって、
 部屋じゅうにドタバタと足音が、響き渡っていた。

 フチは、あまりにも素早いので
 今度は、居間にある槍をつかんだ。
 暴れまくるシンラに向けて二本投げつける。
 
 シンラは、
 「はっずれ〜!」と笑って、
    二本の槍も、素早くかわした。

 「おお?フチ?亭主(ワシ)を殺す気か!」

 シンラが去った後ジドが壁で、
 はりつけになった格好になっていた―
 着物の両肩の部分に、二本の槍が見事に命中している。

 「ふん、偉そうにしやがって!」

 シンラは隣の部屋でも
 暴れまくって、物を壊しまくった。

 部屋を飛び出し、階段を駆け下る。
 五階から下の部屋は、客間だ。

 廊下を歩いていた、浴衣姿の人間客達。
 突如、駆け抜けてきた、シンラに
 仰天して悲鳴があがる。

 「きゃあああああ〜!」
 屋敷内は、大パニックだ。
 
 人間離れした、
 素早さで走り抜けていくので、
 誰もが、彼を人間ではない事を察知した。

 何故なら、壁すら、突っ走っていくのだから。
 それを見た周りの人間客達が、大騒ぎするので
 シンラは、余計に面白くなってしまったらしい。

 これはもう止まりそうにもない、
 このまま放っておいたら屋敷は、完全に破壊されてしまう。

 部屋の中は地震に遭ったかの様に、
 揺れている。時々、大黒柱が、きしむ音で震わす。

 シンラは、一階まで駈け下りてきた。
      縁側がある部屋へ突入していく。



6『シンラの嘆き』
 
フチは遂に激怒した
  突如疾風の如く、物凄いスピードで走る。

 そのまま、
 いきなりシンラをフッ飛ばした。
 
 人間であれば、いい年をした老婆だが、
 仙人なので半端じゃない。

 シンラは、
 勢いよくうつぶせに倒れて畳にキスしてしまった。
 
 一瞬、何が起きたのか
 分からなかったらしく、驚きつつも起き上がる。

 でも、怪我はしていない……
 
 「ああ、何てひどい事を!
       僕は今まで方々道に
              迷い歩いて飢えている。

 それなのに人間達は、
    汚いだの気持ち悪いだのと言って殺そうとする。

 でも、あなたは僕の魂が見えた。
      どうか、この哀れな僕を同情してやっておくれ!」
 
 シンラは、
 フチにかなわないと思うと、嘆いてすがった。
 
 「このバカもんが!
     身も心も穢れて腐りきった
          おまえなど誰が同情するものか?」
 
 フチは、シンラがふざけ過ぎだと思う。
 
 「何ですって?ひどい!あんまりだ!
            散々人間に嫌われても、必死で

 健気に生きて頑張ってきた!
        それが何故分からないんです!」
 
 シンラは、思わず悲痛になる。

 「いい加減にせんか?
     おまえは何故人間に、
          
  嫌われるか考えた事があるのか!
       自分勝手で図々しくして、何が健気だ!」

 フチは、シンラが、物分り悪いとイライラ。

 「自分勝手じゃない、
    好きな様に生きるのが、僕の生きがいだ〜!
         自分を捨てる方が、よっぽど自分勝手です!」
 
 シンラは、個性が大事だとばかりに、
       カッとなって、牙をむいて怒った。



7『やめて〜』

 
我神屋敷の中は、騒然としていた。
 
 シンラが大暴れして、まるで台風が
 過ぎ去ったかの様な光景だった。

 そんなシンラだったが、
   フチは遂に追い詰めていた。
 
 シンラは、泣き落とし作戦で
    必死に抵抗している。その様子に……
 
 「ワシが嫌うもう一つの理由は、
       おまえがドブ臭いという事じゃ、
                それに盗み癖がある!」

  フチは、箒でシンラを
  ぶっ飛ばし、縁側から庭へ履き落とした。

 「イタッ!」

 シンラは、地面に叩きつけられた。
       途端に、ドブネズミの姿に戻った。
 
 「盗みぐせって……」
 
 ドブネズミ(シンラ)が、
     記憶にないという顔をする。
 
 「最近、屋敷の食糧が
      食い荒らされておった。
          どうみてもおまえの仕業じゃ」

 フチが睨む。
 
 「腹が、減っていた。
      盗んだんじゃナイ。食っただけだ」

 ドブネズミ(シンラ)は、
       ブチブチ文句を垂れる。
 
 「全くコイツめ!
     かまどに放り込んで、始末してやる!」

 フチが、火箸を持ってきた。
 
 「あーっ!やめて〜〜!」
  ドブネズミ(シンラ)が、悲鳴をあげた。

 「どうしました? 何の騒ぎです!」
  そこへ一匹の黒い秋田犬が、歩いてやって来た。
 
 「おお、いい所に来た四目。
    このドブ臭いネズミをどっかに捨ててきておくれ!」

 フチが、黒い日本犬に命令した。



8『ひどいっ!』

 四目(黒い秋田犬)は部屋から縁側へ降りる。
 次に震えるドブネズミ(シンラ)のそばへと
 歩み寄って来た。
 
 「あ、ひどいっ!」
 
 四目は、素早く、くわえる―
 ドブネズミ(シンラ)は、悲しみだした。
 すると、ドス黒い体毛が純白に。
 
 「おお?これは摩訶不思議じゃ!」
 フチは、汚がらずに、ネズミ(シンラ)を手にとった。

 前のネズミ(シンラ)は、
 ドブ臭く真っ黒でベトベトしていたのに
 今は純白でサラサラフカフカの艶々絹毛。
 
 変な臭いもない。彼は金運と良縁を
 運ぶ縁起のいいダイコクネズミに変わっていた。
 ただ、妖怪のせいなのか、若干体温が低い気がした。

 これは、どちらかというと、
 爬虫類の様な感じなのだ。明らかに陰体質……
 
 「フチ様?」
 シンラは、フチの態度が、変わったので驚く。
 
 「まあ、ネズミには変わらないが」
 フチは、ダイコクネズミ(シンラ)を地面に置く。

 「すみません!悪さして
     ごめんなさい、お詫びに何か
       出来る事があったら僕、何でもやります!」
 
 シンラは、ネズミから
 青年にまた変化すると、土下座して謝った。
 
 そんなワケでシンラは、ここで飼われる事になった。
 そういうわけで、フチの屋敷で働く助手として雇われる事に。

 魂の温泉旅館は、人手不足だったので丁度良かったのだ。



9『ケージから出勤しマウス』

 秩父三峰山北奥―
 鬱蒼とした蒼深い森奥―

 太陽が照らされている間は、
 闇夜の道は閉ざされている。

 やがて酉の初刻となり日は沈み(火は死に)
 夜(四→死)黄泉となる。

 生ある者達は、寝静まり魂が抜けゆく。
 そして、トラツグミ(鵺)の鳴き声によって
 闇夜が、開かれ魂が導かれる。

 月夜の晩―

 狼の咆哮が木霊し、霊力が高まる頃―
 我神屋敷の一階、質素な床の和室……

 「シンラ、仕事じゃ」
 フチは、ケージからダイコクネズミを出す。

 「はあい」
 返事を、するとダイコクネズミは、
 青年の姿へと変化した。

 二本足で床に立つといよいよ
 仕事なのだなという顔をする。

 「シンラ、髪が肩まで伸びとる、この髪留めを使え」
 
 フチは、白っぽい長髪が、目に余ると感じた様だ。
 シンラに、紅白の髪留めを渡す。

 「僕、自分でできない」
  シンラは、紅白の髪留めを手に困惑。

 「たっく、しようもない奴じゃ」

 フチはシンラの後ろ髪を櫛でとかし、
 髪留めを付けてやった。

 「次からは、自分でやるのだぞ」と
  フチが呆れ、シンラが「はい」と答えて頭を下げる。



10『魂の勘定』
 
現世で穢れのない魂が病死、自殺、殺害死、
 事故、災害死、戦死などによって命を落とした者は、
 さまよい、悩み、転生して、もののけとなり、鬼神となる―

 魂の旅館で働く営業員達が、
   そうなのだが前世で何があったかは忘れている。
        嫌な事は、自らリセットしてしまうのだろう。

 部屋の十二支時計が、子の正刻になった時―
 多くの人間達が、息を抜いて夢を視る―
 その時、肉体から魂が抜けるのだ。

 魂の湯治客達が、わきあいあいと
 訪れる。ますます、忙しくなってきた。
 
 初勤務という事で旅館の受付は見学をする事になる。
 ここでの支払いは、前払い制だった―

 「お客様、黄金の間は一晩、百万円となっております」
  
  着物を着た受付の女性が、カウンターに秤を置いた。
  その秤には、青白い魂が一つ載っていた。

 「これでお願いします」

 男性客が、百万円の札束を出す。
 受付嬢が、百万円を受け取り、札束を秤に載せた。

 「申し訳ございません、
    この百万円は魂の重さより軽いです、
        その為ご規定の金額に達しておりません」

 秤にかけられた札束が、魂の重さに負けて浮いていた。
 
 「何だって?」
  男性客が焦る。
 「そういうわけで、お引き取りくださいませ」
 
 「責任者を出せ!ワシが苦労して稼いだ金だぞ!」
  受付で騒いでいると、フチがそこへやって来た。
 
 「お客様、嘘を言っちゃあいけないよ」
 「何?」
  男性客がフチを睨む。
 
 「そのお金は、詐欺で稼いだから重みがなくて軽いのだ」
 「なっ?」
  男性客が、フチに言われて、そんなバカなという顔をした。

 「隣のお客様のお支払いを視てみなさい」
  フチに言われて、隣のカウンターで支払いの様子を見る―

 「ありがとうございます、
      星屑の間、五十万円は
         ご規定の金額に達されました。
             ごゆっくり、お過ごしくださいませ」

 隣の受付嬢が、
 富豪の娘にニッコリと対応する。

 秤に載せられた白い魂と、
 五十万円の札束は見事に釣り合っていた―

 「くっ!」
 男性客は、真っ青な顔になった。

 受付に並んでいた客達が、その様子をじっと見入る……

「あの人詐欺師だって」
「うわ、ここじゃ悪い人がハッキリ分かるんだねぇ」

 客達が、口ぐちに噂し合うと、
   男性客は、青かった顔を次に赤くして
        恥ずかしそうに退館していった……

 「魂の旅館って、不思議なお勘定をするんだね」
  シンラが、その様子を見て興味深く感じた。

 「おまえは、ネズミだから
   お金の価値は分かりにくいであろう?」

 フチは、シンラに受付はムリかもと思った。

 「でも、お金って使った事があった様な気がする」
  シンラは、意外な事を口にする。

 「いつごろの話だい?」
 「忘れた」
 シンラは、受付の見学が済むとそこを後にした―

 そして、我神屋敷の営業員達に
 混じって、仕事を始めた。

 何もかも初めてなので、ちんぷんかんぷんである。
 とりあえず、営業員がやっている仕事のマネをする事に。

 我神屋敷の三階、大広間で宴会が始まった。
 食事を運ぶのをシンラは手伝っている。

 そのうち営業員達は、全員隣の部屋へ行ってしまった。
 シンラだけが、そこで客達の世話をする事に。
 
「お?新人かぁ〜」
  A浴衣の男が、シンラに目をつけた。
「何か、おまえ若くて可愛いな」
  B浴衣の男が、シンラにウットリ。

 「名前は?」
  浴衣の女が、興味深々に、シンラに聴く。
 「シンラです、今日から、ここで働いています」
  シンラは、客達に頭を下げた。
 
 「そうか、シンラさんか。いい名前だな」
  B浴衣男客が、うなずく。
 「シンラさんも飲めよ、ホラ」
  A浴衣男客が、シンラに酒を差し出す。

 「え?」戸惑うシンラ。
 「いいんだよ、今日は、就職祝いだ」
  浴衣女客が、シンラに杯を持たせた。
 「そうですか、じゃいただきます。」
  シンラは、杯に注がれたお酒を飲む……

 これは、仕事だ。客へのサービスなのだと思って。



11『戦死した息子に似ている』
 
宴会はピークを迎えていた。
  浴衣姿の客達はシンラがお酒を
  飲む姿にすっかり興奮していた。
  いくら飲ませても、全く酔う様子がない。

 「いい、飲みっぷりだね〜!」
 「よっ!色男!」
 「一気!一気!」
 
 客達は、期待に添えて、
 シンラが、飲んでくれるので大喜びした。

 数分後―

 シンラは、気持ちが良くなってきたのだろうか?
 突然、フラッとなって倒れ込みスヤスヤとその場で
 幸せな顔で眠りにつく……(畳の上で)

 「おやおや、眠っちまった」
 「まあ、あれだけ飲んだらムリねぇか」
 「人間なら、とっくに潰れている」
 「それにしちゃ顔が、全然赤くなってないしなぁ」

 浴衣客達が、倒れ込んで寝ているシンラを囲んでつぶやいた。
 
 そこへ浴衣姿の高齢女性客が、
          割り込んで来て―
            
 寝ているシンラに寄り添いながら
         「このコは衛だわ!」と言った。
 
 「ええ〜衛って、戦死した息子さんだろ〜?」
  B浴衣男客が、びっくり。
 
 「顔は違うけど、感じられる気が息子と同じなの」
  女性は、震えながら答える。

 「ホントかよ〜」
  A浴衣男客が、疑う。

 「でも戦死なら、神様になっているハズだよ?」
  浴衣女客が、疑問を持つ。

 「そうだけど……」
 高齢女性は、眠ってしまったシンラに、
 自分の羽織をかけてやった。

 「ここは、あの世と繋がっている、いてもおかしくないか」

 大広間でちょっとした騒ぎになっている所へ、フチが来た。

 「まーったく、シンラときたら!」と、
         フチが怒り通り越して呆れる。

 「あの、こ、このコは、どうしてここで働いているのですか?」
  高齢女性客が、フチに訊ねる。

 「お客さん、コイツはただの物の怪じゃ」とフチ。

 「でも、亡くなった息子と、同じ気を感じるんです……」
  高齢女性客は、悲しそうな顔をする。

 「気のせいじゃ、さあ皆さん宴会は終わりです」と
   フチが、締めくくると浴衣客達は、大広間から全員去った。



12『仕事中に、呑んでどうする?』


 それから、何分経っただろうか?
  
「こりゃ〜!シンラ、いつまで眠っておるか〜?」
  突然、フチのカミナリが、シンラの脳天に響き渡る。

 「ファッ?」
 シンラは、畳の上で、感電した様に飛び起きた。

 天井近くの門間の彫り物が目に映る。
 次に何事かと、思わずキョロキョロする。
 
 宴会は既に終わっており、そこには誰もいなかった。
 部屋には、食べ終わった食器が残っているだけ。

 「勤務中に呑んではイカン!」
  怒りに震えるフチ。

 「え〜?お客様が喜んでくれるんで……」
  シンラは、頭をポリポリ。

 「潰れてしまっては、勤務放棄じゃ!」
  フチが、ガン飛ばす。

 「あれ?この羽織どうしたのかな……」
  シンラは、自分の肩にかかる羽織に気付く。
 
 その時、大広間の戸が開いて
   「シンラさん、目を覚ましたんですね」と
                高齢女性客が顔を出した。

「この羽織をかけてくれたのは、あなたでしたか。ありがとう」
 シンラは、丁寧に頭を下げ、高齢女性客に羽織を返す。
 
 「いえ、どういたしまして」
  女性客は頭を下げて、羽織を受け取る。
 
 「何だか分からないけど、懐かしい感じのする方だ」
                  とシンラが口にすると
 
 高齢女性客が「……!」と
         なって戸を閉め去った。
 
 「あのお客さん、どうしたんだろう?」
  シンラが、キョトンとする。
 
 「ボォッと、してないで、早く片付けるんだ!」
  フチがイラッとなって怒鳴った。
 
 「はぁい〜」
  シンラは、ウンザリしながらも、
  膨大な食器を片付けるのだった。

 仕事が終わると、一階の部屋へ帰った。
 部屋に入ると、ダイコクネズミに戻る。
 ケージに入り、眠りにつく。
 
 虎の刻となり、日が夜蘇る―
 人間客達は、現世へ還り、夜明けともに目覚めていった―



13『シンラは、下界へ』

 生まれて初めての勤務で
 勤務失態を起こしたシンラであったが、
 それ以来、何故か客から可愛がられていた。

 我神屋敷の勤務は、主に夜だけだ。
 多くの人間は、夜に夢を視るから―

 日中は、休憩時間となっている―
 
 ダイコクネズミ(シンラ)は、
 ケージの中でスヤスヤ寝る。目覚めれば
 与えられたエサをコリコリと、ひたすらかじっていた。
 
 フチは「シンラ、今日は下界で仕事がある」と
 言ってケージからダイコクネズミ(シンラ)を出した。
 
 「はい」と言うと
 ダイコクネズミ(シンラ)は、青年の姿へ変化。
 
 「良いか、言われた事だけをするのだぞ!」
  フチが口酸っぱく、シンラに説明する。

 我神屋敷を後に出発する。
 鏡川にかけられた、赤い橋を渡り、鏡森を抜ける。

 最後にトンネルを出れば、ようやく下界へ出る。
 フチは、下界へ出た途端に人間のお婆さんに変化した。
 シンラは、現代風の人間服装に変わる。

 二人は、高度経済成長期を
 迎えた日本の街へとやってくる―

 「人間って、よく働くね……」
  シンラは、忙しなく動く人々に唖然とした。

 「当たり前じゃ、生きていくには、
         働かないとイカンのだ」と、フチ。

 「人間は、会社という檻で飼われているのかぁ」
 「何をバカな事を言っておる?」
 「高架橋の下で座って、物乞いしているのは捨てられたか」
 「言う事が変なネズミだな」
 「違うの?」

  やがて、公園へと踏み入れる。
 
 「ふぁ〜……」
  シンラが、あくびをした。

 「これ!あくびをしている場合ではないぞ」
  フチが、横で喝を入れた。

 「僕はネズミ(寝住)です、昼はちょっと〜」
  シンラは、眠くてたまらんという顔。
 
 「ピシッとせんか!」
  フチは、シンラの尻をバシッと強く叩いて、
 「チッ!」と、ネズミ声を、鳴かせて飛び上がらせた。

 時間は午後の昼を迎えていた―

 「皆様、お待たせしました
  これより華麗なる曲芸をごらんあれ!」と、
  舞台衣装に身を包んだ、フチがハキハキとした声をあげた。

 公園の一角に、いつの間にか舞台が完成。
 シンラが舞台に上がると、集まってきた人間達が拍手喝采―

 シンラは、人間達に向かってお辞儀。
 次にクルリと、とんぼ返りをする―

 「おーっ?!」(観客のざわめき)
 観客達の前から、青年の姿が消滅。
 代わりにいたのは、小さな白いダイコクネズミだった。


   
14『シンラの曲芸』

 
公園では、ダイコクネズミによる曲芸が始まった。

 「では、ご覧いただきましょう〜」
 
  フチは、舞台の上に小さな櫓と
  綱渡りのセットを置いた。

 ダイコクネズミ(シンラ)は、
 小さな梯子を運んできた。櫓にかけ、その梯子を上った。

 段差の所まで登り切ると、
 梯子を引っ張り上げて上の段にかけ、また登る。
 登り切った先は、一本の綱が向うまで橋渡ししてあった。

 ダイコクネズミ(シンラ)は、綱を器用に渡る。
 綱渡りを終えると、ミニ参道を通り、鳥居をくぐった。
 
 着いた先にお堂があって、鈴が下がっている。
 ダイコクネズミ(シンラ)は、器用に手を使って紐を揺すり
 『チリン、チリン』と鈴を鳴らす。
 
 次に賽銭箱に、五円を投入。
 更に、横にあったおみくじを引く。
 引いたおみくじをくわえた。
 
 再び綱渡りをして梯子を使って櫓から降りてきた。
 ダイコクネズミ(シンラ)は、そこでクルリととんぼ返り。

 どろんと白い煙をあげ、青年の姿に戻る。
 口にくわえていた、おみくじを手にとり、
 観客達に向かって広げた。

「大吉〜!」と、フチが大声で発した。
 囲んで見守っていた、観客達が「おーっ!」と
 歓喜の声をあげ拍手を送る。
 
 「皆様、ありがとうございました〜!」
  フチは、感謝のお辞儀をする。
 
 シンラはその間、頭を下げ、
 手にしたザルに観客達から観覧料を入れてもらっていた。

 曲芸が終わると、観客達は舞台の周りを去って行く。
 
 「シンラ、でかしたぞ!良い稼ぎであった」
  フチが、シンラの頭をグリグリ撫でる。
 
「ええ、どういたしまして……」
  シンラは、終わってホッしていたが、ふと疑問が湧く。
 
 「何で、いちいち変化までするの?
    最初から最後までダイコクネズミでいいじゃないか?
      変化って霊力使うから疲れる……」と、訊いたら―

 「近頃の人間は、動物虐待だとか、
    言ってうるさいからシンラが人間である事を、
        バラした方が後々ラクなんじゃ……」と、フチ。

 「はぁ?!」
  シンラは、唖然とした。
 
 公園で涼しい風が吹き、
 白系シルバー髪を揺らして乱していった―


  
16『お腹減ったぁ』

 
「さて、次へ行くぞ!」と、
 フチは、早くも次の公演開催地へ歩き出そうとしていた。

 公園の木々の葉が、風に吹かれサラサラと音を奏でている中―
 
 「待ってください、もう僕お腹空いちゃって歩けません!」
  シンラは、お腹がグーグー鳴っていた。

 「え、もうかい?……ワシは、まだ少しも腹が空かぬ」
  フチは、平然とした顔。
 
 「あなたは仙人です、生身の僕は、そうもいきません」
  シンラは、霊力も使い切ってフラフラだ。
 
 「たっく、世話の焼ける奴め……」
  
 フチは、何処で待ち合わせたのか、
  鏡村にいるハズの左近を呼びよせた。
  
 左近は、身なり、態度共に
 男っぽいが、実は女だったりする―

 「左近、すまないシンラにメシを買ってきてくれ」
 フチは左近にお金を持たせて、どっかで弁当を買ってこさせた。

 「お待たせしました」
  左近が、うやうやしくシンラに弁当を差し出す。
 「ありがとうございます」
 
 シンラは左近から弁当を受け取り
 「いただきます」と言って、ベンチに座って食べだす。
 
 「左近、あの弁当いくらした?」
  フチが、不満げな目。
 
 弁当の卵と肉が、あまりにも綺麗に盛り付けてあったので。

 左近は、こわごわ答えた。

「ばかもん!そんな高いモン
  買ったらせっかくの稼ぎがパァではないかぁぁ〜?」

 フチが大激怒した。

 「申し訳ございませんー!特売品は売り切れていましたので」
  左近が、慌てて平謝り。

 その横でシンラは
 弁当がよほど美味いのか、
 険悪なムードに気付きもせず、夢中でパク付いていた。

「この弁当を作った人間は料理の天才だな!」
 と、称賛しまくり……

 シンラが座っているベンチの後ろでは、
 公園の池の噴水が、涼しく吹き上げていた。


    17『高級弁当のナニが悪い?』

 
「ああ、美味しかった!ご馳走様でした〜」
  シンラは、お腹が、いっぱいになり満足していた。
 
 「当たり前じゃ、あんな高級弁当を食いおって!」と
  フチが呆れ顔。
 
 その足元で、左近が土下座の態勢のまま、動けずにいた。
 「ああ、なんたる失態……!」
 と、ブツブツ謝罪し続けている。
 
 「こんな時代に、卵や肉を沢山詰めた
       贅沢弁当をよく作れたものだ……
                弁当屋は大当たりだな!」
 
 フチは、文句ぶうたれ放題。
     この時代、卵や肉はまだ高価だった。

 「フチ様、何怒っているの?僕は今幸せな気分だ」
  
 シンラはネズミだから、
 経済事情なんて知る由もないのだろう。

 「全く、物の怪め……」
 フチは、シンラの悪そびれる様子もない姿に
 疲れた様な顔をした。

 「ちょっと、トイレに行ってくる」
  シンラは、そこを抜け出して行った―
 
「ああっ?」
  フチは、呆れて見送るしかなかった。
 
「シンラ様、完全に自分のペースで、動いていますね」
  左近も、呆れていた。


  
  18『窮鼠サマ』

  シンラは、公園のトイレを出て歩き出した―
 
  どすんっ……
 (誰かにぶつかった音)
 
 「あ、失礼しました」
 シンラは、慌てて、その人に向かって頭を下げた。

 「坊、久しぶりだな―」と
  地獄の底から、聞こえてくる様な低い声。

 シンラが、恐る恐る顔を
        あげると目の前には
            トレンチコートを着た、大男がいる。

 頭にはシルクハット、口の周りは板垣退助みたいな
                ヒゲをモサッと生やしていた。
 「ふぁっ?きゅ、窮鼠サマ!」
  シンラは、思わず血の気が引いた。

 よくよく見れば、袖からは毛深い
 手首が出ている。紛れもなく、ネズミの手首。

「坊―じゃなかった。シンラか……
         人間から名をもらったせいで
                   心を持ってしまったの」

 窮鼠は、青年姿のシンラをマジマジ見つめブツブツ言う。
 「すみません―」とシンラは、謝る。

 「おまえは、ワシの元で大妖怪になる
   修行をしておったのに、勝手に抜け出しおって!」 

 「あ、あの……」
  シンラは、声がどもる。
 
 「人間が嫌いだったのであろう?
   それなのに今では、飼い馴らされて芸までする始末だ」
 
   窮鼠は、不満げな顔だ。

 「嫌いだけど、いい人もいる」
  シンラは、複雑な気分だがそう答えた。
 
 「飼い慣らされたおまえは、
    子孫を残そうとする本能すら失った」                 
 窮鼠に指摘されて気付いたのは右腕に
        星型の模様が一つ付いていた事だ。
              鬼神になった事の証なのだという。

 「シンラは、心をもらって鬼神に変化した。
          気心(きしん)は、常に氣が転がる―
 
 善と悪の間を行き来して心が定まらないのだ。
              結果永遠に思い悩む―」

  窮鼠は、それだけ言い残すと霧の様に消えた。

   シンラが我に還ると、誰もいなくなった
           公園の片隅で立ち尽くしている。

 「シンラ様、放心している場合じゃありませんよ!」
  左近が迎えに来て、シンラを引っ張って行く。


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この作品の著作権は、作者である ぷーでる さんに帰属します。無断転載等を禁じます。

5〜18まで、まとめました。
今まで投稿した6〜13は、削除しました。
この後、また追加予定です。
2018/02/06 18:06 ぷーでる



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